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「…目が覚めたか」
「……ぁ゛い」
喉が痛い。
気がついたら、無陀野さんが私の顔を覗き込んでいた。
いつの間にやらベッドまで運ばれてきていたらしい。
何時間経ったのだろう。窓もないため確認は出来ないが、体感的にはそれほど時間は経ってないように思う。
「お前、ほんとに鬼か？」
どこか戸惑ったような声。
イメージと違って面白い、けど。
私は驚いて飛び起きると口を開く。
「そんなわけないじゃないですか」
視線が交差する。
時が止まった。
比喩的な表現ではあるが、あの瞬間、間違いなく無陀野さんの時間も止まっていたと思う。
「………」
「………」
互いに顔を見合せ、時間だけが過ぎていく。
「…え？」
無陀野さんが声を漏らす。
「え？」
なんで驚くのだろう、と私も声が出る。
二人の間に盛大な勘違いが発生していたことを、今この瞬間になってようやく、互いが自覚したことに気がついたのだった。
「ちょっと待ってくれ、じゃあお前はなんであの場に居たんだ」
最早ため息で喋っているんじゃないかと錯覚しそうなほど疲れた様子の無陀野さんが額に手を当てながら私に尋ねる。
「工事現場が父の職場で、忘れ物をしたって言うんで、取りに行ってました」
私の答えに、無陀野さんの影が一層濃くなったような気がした。
「普通近寄らないだろ」
「工事現場が荒らされて頭に血が上って…」
あ、馬鹿だ。
無陀野さんの顔には、はっきりとその文字が浮かんでいた。
手遅れな気もするが、馬鹿を露呈するのは恥ずかしかったので、私は話題を変える。
「…私、どうなりますか」
「俺らに関わったからには、桃に狙われることになるだろうな」
その簡潔な答えに、帰るの無理だな、と悟る。
死にかけたからか、頭はいつも以上に平静だった。
「…雑用でもなんでもやるんで、ここに置いて貰えますか」
「…ああ」
無駄を嫌うらしい彼にしては、おそらく珍しく、私に心底丁寧に『羅刹学園』について説明してくれた。
無陀野さん…いや、無陀野先生が担当する鬼達の補助…というか、雑用をさせてもらえるらしい。
「とりあえず、お前は医務室で待機しててくれ。怪我人が出るだろうからな」
「ｴｯハイ」
怪我人かあ…よほど血の気の多い学園なんだな…。
多少のことで動じないようになろうと覚悟を決める。
結局、数十分後には瀕死の女の子にビビって血の気が引いたかと思えば、そのまま訳も分からず荷物を持って船に乗せられたりするのだが。
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作者名：9109 | 作成日時：2023年4月26日 17時
