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難しいことは何も分からなかった。
目の前の出来事も理解できなかった。
でも、これだけは分かった。
「何してくれてんのよこのボケナスくそ野郎ども!!!!!!!」
考える前に身体が動く。
彼らの間に割って入る。
滲んだ視界でおじさん二人と少年を見る。
「お父さんたちが汗水垂らして作った現場荒らしてんじゃないわよ!!!!!」
私は今、怒っているんだ。
「鬼だか桃太郎だか知らないけど!!!人の仕事馬鹿にして!!!努力を無駄にできるんだからさぞお偉いんでしょうね!!!」
叫ぶだけ叫んで、熱が落ち着いてくる。
少しだけ、周りを見る余裕が出ていた。
彼らの表情は、まさにさっきの私だった。
訳が分からないんだろう。
私は叫んで痛い喉と、興奮で荒くなった息を落ち着かせるために肩で息をする。
誰も私を止めなかった。
何も言わなかった。
少しの静寂を取り戻した工事現場に、ヘリコプターの音が近づいてくる。
スーツのおじさんはそれを聞くと舌打ちし、もう一人のおじさんに問いかけた。
「あの鬼を見て先輩の判断は正しかったと言えますか…?」
和装のおじさんは答える。
「幸せにはなれたぜ…」
スーツのおじさんはそれを聞くと一瞬だけ目を瞑り、そして私の方を見て
「悪かったな嬢ちゃん」
そう言い残して去っていった。
少年はそれを追いかけようとして転び、悔しそうに空を掴む。
そして彼の父…なのだろうか。和装のおじさんと話し始める。
話している途中、入口に人の気配を感じてそちらを見れば、傘と鞄を持った男の人が立っていることに気がついた。
…また、チックトッカーだろうか。
くだらない事を考える余裕が戻ってきたのだろう。
私は未だに何も理解しないまま考える。
いつの間にか気を失っていたおじさんを抱き抱え、少年は泣いている。
家、帰るタイミング見失ったなぁ…。
男の人はいつの間にか少年の後ろに回り込むと
「ここじゃ人目につくな」
そう言って今度は逆に回りこみ、少年を気絶させる。
そして私の方に振り向くと、
「来い」
それだけ言って、少年とおじさんをだき抱えるとスタスタと歩き始めた。
私は脳のキャパオーバーを感じながら、とりあえず彼についていった。
今の動き、目で追えなかったな。
そういえば、鬼とか桃太郎とか、結局何なんだろうな。
ついて行けば、説明してもらえるかな。
その頭からは、既に家に帰ることなど抜け落ちてしまっていたのだ。
私の災難は、ここから始まった。
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作者名:9109 | 作成日時:2023年4月26日 17時