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1、災難の始まり ページ1

──それは本当に、まったくの偶然だったのだ。

「あ、現場に忘れもんした」

例えばそれは、滅多に忘れ物をしない父がそう呟いたことだったり。

「姉ちゃんポテりこ買ってきてー」

例えばそれは、受験生の弟にパシられるついでに、その忘れ物を私が取りに行かされたことだったり。

「まったく、事務所の鍵も閉まってないじゃん。不用心だな…」

ガコッ!!!

「あれ?今日の工事は終わったはずなのに…」

例えばそれは、工事現場から聞こえてきた大きな物音だったり。

私がそれを確認しに行ってしまったことだったり。

不幸が訪れるのはいつだって唐突で、

「ここ、工事現場なんで一般人は立ち入り禁…し……」

そしていちばん間抜けな奴がそんな目に遭うのだ。

一体誰が想像できるのだろうか。

大破した車。

「鬼の血を継ぐお前は人間にとっての害虫」

黒いモヤのような粒子に拘束された少年。

「その害虫を駆除するのが我々『桃太郎機関』だ」

よく分からないことを話す、明らかにバチバチ敵対状態のおじさん二人。

目の前の光景を何とか理解しようと頭がフル回転する。

ここは本当に、父の職場の工事現場で合っているのだろうか。

ポケットには確かに父の財布が入っている。

じゃあ、今見ているこれは何なのだろう。

十数年の乏しい人生経験は役に立ちそうもなかった。

私は思った。

これ、チックトックでよく見る迷惑系ってやつだ、と。

それにしては年齢層も高いし、CGでは説明出来ないような物が見えていたが、私の乏しい想像力ではそれが限界だったのだ。

馬鹿とは言うな、ぶん殴るからな。

まぁとにかく、私はそんなものに相対したことなどなかったので、まるで世界線が違うかのような会話を黙って見ることしか出来なかったのだ。

……すぐに黒いモヤ同士で武器を作って戦い始めたから意味もわからず眺めていたとも言う。

後々、私はこれを後悔することになる。

私は直ぐにこの場を離れるべきだったのだ。

さっさと父の財布でポテりこを買って、おつりで自分のジュースなんか買って。

そうして家に帰れば、いつも通りの平和な日常に戻れたというのに。

私の脳内がお花畑なのは生まれつき、なのだ。

悲しきかな。

ぼうっと眺めている間に少年は化け物に変わり、現場の壁が吹っ飛んで大きな穴があく。

私の脳は処理限界を迎えた。

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作者名:9109 | 作成日時:2023年4月26日 17時

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