人形の街シュピール【オリジナル】

人形の夢４ ページ10

シュヴァンツは、少年の背負うリュックの隙間に見知った柄を見た。リュックの迷彩柄に紛れたそれは、トラを模した人形の、黒い縞模様。気のせいかと一度は視線を逸らしたシュヴァンツだったが、もぞりと動いた人形を見て、目を見張った。

(あ、れ？)

　トラの顔は、よく見知ったものだった。それは、昨日まで一緒に遊んでいた、大切な、家族。だが虚ろな目、ドロドロの身体は昨日までとは見紛うほど。口が小さく動き、

　た、す、け、て。

　と読み取れた。
　シュヴァンツは今すぐ助けに行きたい気持ちだったが、何しろ昼である、動くことは叶わない。

(クソッ)

　シュヴァンツは歯軋りした。
　早く、早く救わないと。
　早く、手遅れになる前に。

　シュヴァンツの願いも虚しく、リュックを背負った少年は店から出ていった。
　少しだけ開いているはずのチャックからは、角度のせいかフウの様子は確認できない。これでは、どうすることもできない。

　一体どういった使い方をすればあんなにボロボロになるのだろう。
　チャンバラごっこでもさせた？ それとも木に吊るした？ 叩いて、踏みつけて、苛めた？

(──そんなこと、どうでもいい)

　それがどんなことであろうと、許される行為ではない。
　フウが、辛いと思った。なら、持ち主の非だと考える。大切し扱わなかったあの少年が────

「シュ、ヴァンツ……？」

　オレイユの心配そうな声音で、シュヴァンツは我に返った。見れば、子供たちもこちらを見ていた。
　いつのまにか、辺りは闇に染まっている。随分長い時間、物思いに耽っていたようだ。

(そうだ、俺がしっかりしなきゃ)

　とシュヴァンツは自分に言い聞かせる。
　自分は皆の兄的存在だと、自覚しているからこそ。

「大丈夫、──さぁ、今日は何をして遊びたい？」

　シュヴァンツは笑顔の仮面をつける。
　こんな虚しい思いをするのは自分だけでいいと言うように。

(俺が──皆を、守るんだ)

☆★☆

どうも、作者です。
いつもは字数ぴったりなんですが今回はどうも切れが悪く。
最近スランプ気味だったので上手いこと話を膨らませられませんでした(謝罪)。

どうしても話が暗くなるんです。
けっこう長い間この悩みを抱えてる気がするんですけど、別で書いてる異世界モノ(非公開)も徐々にストーリーが暗くなってるぅ……ことに気付きまして。
暗い展開が嫌いな方、ホントにごめんなさい。悪気はないんです。あと作者も明るい話が好み(蹴

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