内なる野望１ ページ15
「あ」
「あ……っと」
見知った顔の犬と出会い、私と彼はほぼ同時に声をあげた。
が、名前が出てこない。喉元に引っかかった小骨が、つっかえて出てこないカンジ。要するにもどかしい時間が流れている。
「Aさん……だったっけ？」
「はい」
小首をかしげながら問う彼に、私は動揺気味に答えた。
どうしよう、名前が出てこない。
「……どうしたの？」
やや時間差あって、次の質問が投げかけられた。
やはりシュピール一のマイペース者だと言われているだけある。自分の世界を持っている。
「えーっと……クララさんのところに」
今日は行くつもりのない骨董屋を指定したのには「人間の世界に戻るための手掛かりを求め探している」などとは言えないからだ。
家に帰ると、オレイユがドアの内側で待ち構えていた。
ただいま、のまの字の辺りで勢いよく抱き着かれ、言葉を失った私だったが。
『Aさん、ごめんなさいね』
唐突に頭を下げられ、一体なんのことだったか、とつい首をかしげる。
出掛ける前に話してたことだよ、と横からこっそり教えてくれたミティには感謝する。しっかりしろ自分の海馬。
『いえいえ、気にしていませんから……それに、こっちこそ急に変なこと言ってしまって、ごめんなさい』
『……本当？』
オレイユは目に溜まって今にも零れ落ちそうな涙を袖口で拭い取った。
そして、
『私、あなたに話しておきたいことがあるの。重い内容でもあるけど……聞いてくれる？』
こうして語られたのが、オレイユが昔いたおもちゃ屋のこと、たくさんの仲間と仲良く暮らしていたこと、売れ残ったオレイユがそのうち年長組の一員に加わったこと、皆のお父さんでありお兄さん的存在であったシュヴァンツが買われていったこと。大切な仲間が酷い目に遭い、人間が信用し切れなくなったことまで。
話している間のオレイユの表情はとても穏やかで、もう捨て去った過去、といった表現がピッタリ当てはまるようなものだった。
『こうして、私もいつしか人間の少女に買われていったのよ。人間なんて誰も同じにしか見えないけれど』
そう締め
──人形を買った少女は私よ、私は絶対酷いことしない、と。
私を人形の持ち主だと知らないオレイユからすれば、きっと人形仲間に愚痴を吐いている程度のことだろう。しかし、持ち主としての自覚が足りなかったのでは、と思えてならない。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 8人がお気に入り
お気に入り作者に追加
「オリジナル」関連の作品
この作品が参加のイベント ( イベント作成 )
この作品が参加のイベント 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
葉月だんご(プロフ) - 麦カケさん» 感想ありがとうございます〜！ 私も書いてるとき、主人公の正体をバラそうか隠そうか迷いました（笑） 今後の展開にもぜひ、ご期待ください(*´ω`*) (2020年12月30日 23時) (
レス) id: 1261bb0f48 (このIDを非表示/違反報告)
麦カケ(プロフ) - 初めまして。人形達が持ち主だって気づいてない所がせつないです(でもそう言う設定好きです)これからどう言う展開になっていくのか気になります。無理せず作者様のペースで頑張ってください！ (2020年12月30日 17時) (レス) id: ea0439ca7f (このIDを非表示/違反報告)
葉月だんご(プロフ) - 千々さん» コメントありがとうございます♪ お気に召していただけたようで何よりです！ この感想を糧に引き続き更新がんばりますので、お付き合いいただけたら幸いです〜(*´艸｀*) (2020年3月30日 17時) (レス) id: 3d624ae683 (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - オリジナルでいい作品を久しぶりに見つけられました！ 人形たちの微笑ましい生活をこれからも見ていきたいと思います！ (2020年3月15日 13時) (レス) id: df88b28f21 (このIDを非表示/違反報告)
だんご(プロフ) - ぐうたら猫さん» コメントありがとうございます〜！ 気に入っていただけたようで何よりです♪ ネコのぬいぐるみってカワイイですよね← (2020年1月8日 2時) (レス) id: 3d624ae683 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：葉月だんご | 作成日時：2019年10月19日 12時
