人形の夢６ ページ12
私は曖昧な返事を返すしかなかった。
彼の願いだったのだから、喜ばなきゃ。そうは思っても、胸が締め付けられた。
とうとう、シュヴァンツとの別れが来たのね。
翌日、小箱に梱包されるシュヴァンツに、私は涙を隠して笑った。
よかったね、頑張って。そんな意味にとれる、笑みを。そんな意味にしかとれない、笑みを。
涙なんて見せたら、優しい彼は帰りたくなってしまうだろうから。彼には楽しい外の世界を見てきてほしいから。
彼は人間にはわからないようにチラリと瞳を動かして、私を見つめた。彼が「さようなら」と伝えているのを、私はすぐに理解した。何年もの時を共にしてきたのだから、目で会話できるくらいには意思疎通できている。
彼の瞳に、私も見つめ返して。
こうして長年付き添ってきた相棒との別れの儀は過ぎ去っていった。
ちなみに、その日の夜に、私が声をあげて泣いたのは、彼には秘密よ。
「姉さん、兄さんのこと、好きだったんだね」
私が泣き止むまで絶えず傍に付き添ってくれたドンノラは、私の背中をさすりながら、そう言った。
私が思っている以上に、私はシュヴァンツを想っていたのね──……
それから数日後、すぐに私も引き取られた。私を手に入れた幼い少女の笑顔が、今でも心に焼き付いている。それは──
私はティーカップを傾け、
「あら」
もう中身が空であることに気付いた。
入れ直そうと、席を立つ。確か、もうちょっと残ってたはず。
(何度、会いたいと思ったことか)
何度も何度も、
(帰れるのなら、こんなところにいないわよ)
外を見ると、ミティと同年代の子供たちが鬼ごっこをしていた。フウによく似た虎の子供が二人、それにイタチの子供が一人。元気に走り回っている。
Aとミティははまだ帰って来ていない。
もうすぐ一時間が経過する。ミティのことだから、きっとあの子をさんざん連れ回しているのではないか。ヘトヘトになって帰ってくる光景が手に取るようにわかる。
(Aちゃんには、ひどく当たっちゃったわね)
家へ帰れないか、と問うてきた彼女を、過去の自分と重ねてしまった。結果、冷たい態度になってしまった……気もする。
帰ってきたら謝ろう、と心に決め、私はティーカップに注いだ二杯目のコーヒーを飲み干した。
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葉月だんご(プロフ) - 麦カケさん» 感想ありがとうございます〜！ 私も書いてるとき、主人公の正体をバラそうか隠そうか迷いました（笑） 今後の展開にもぜひ、ご期待ください(*´ω`*) (2020年12月30日 23時) (
レス) id: 1261bb0f48 (このIDを非表示/違反報告)
麦カケ(プロフ) - 初めまして。人形達が持ち主だって気づいてない所がせつないです(でもそう言う設定好きです)これからどう言う展開になっていくのか気になります。無理せず作者様のペースで頑張ってください！ (2020年12月30日 17時) (レス) id: ea0439ca7f (このIDを非表示/違反報告)
葉月だんご(プロフ) - 千々さん» コメントありがとうございます♪ お気に召していただけたようで何よりです！ この感想を糧に引き続き更新がんばりますので、お付き合いいただけたら幸いです〜(*´艸｀*) (2020年3月30日 17時) (レス) id: 3d624ae683 (このIDを非表示/違反報告)
千々(プロフ) - オリジナルでいい作品を久しぶりに見つけられました！ 人形たちの微笑ましい生活をこれからも見ていきたいと思います！ (2020年3月15日 13時) (レス) id: df88b28f21 (このIDを非表示/違反報告)
だんご(プロフ) - ぐうたら猫さん» コメントありがとうございます〜！ 気に入っていただけたようで何よりです♪ ネコのぬいぐるみってカワイイですよね← (2020年1月8日 2時) (レス) id: 3d624ae683 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葉月だんご | 作成日時：2019年10月19日 12時
