しゅっちょう ページ10
銀に新たな任務が課せられた。要人の暗殺で、少々遠出をする為、三日ほどヨコハマには帰って来れないそうだ。銀が出張に行く、と云うそれだけの話だが、今回に限っては問題があった。
「どーすんだよ、銀。お嬢も連れてくのか?」
立原の問いに、銀はそんな訳無いだろう、と静かに首を振った。そして困った様に眉を下げ、腕の中の子供を見つめる。兄はきっと子供の世話を嫌がるだろう。かと言って適切な預け先が分からないのだ。
「それなら私が預かりますよ。お嬢は大人しい子ですし、数日なら家で面倒も見れます」
樋口の提案に、銀は暫し考え頭を下げた。お願いします、と云う意味だ。樋口は積極的に子供の相手をしてくれていたし、銀も女性に預けた方が安心だと思ったからだ。
銀の会釈に込められた意味を理解した樋口は、にっこりと笑う。子供を通して、銀と樋口の間には友情の様な物が芽生え始めていた。
「お嬢はそれで良いですか?」と少し身を屈ませ、笑顔で子供に尋ねる樋口に、立原は「視界に入れる度に発狂気味になっていた初期とは偉い違いだな」と思った。
「ひぐちの家?」
「そうですよ。銀が仕事で遠くへ行ってしまうので、お嬢は暫く樋口の家に来るんです」
子供はぱちぱちと瞬いた。
「ぱぱは?」
一緒にいたら駄目なの? と言わんばかりの子供に、一同は言葉を詰まらせた。誰が「君の父親(仮)は君を疎ましく思っているので君の面倒は見れないんだ」と言えようか。
「……あ、えーと……お嬢の御父上は常に忙しいと言うかなんと言うか………お嬢と一緒に居ることは難しいかなー、なんて……」
「わかった」
素直に頷いた子供に、ほっと息を吐いた樋口は「楽しみですねー! 私の妹も喜びますよ!」と態とらしく明るく振舞った。
斯くして子供は樋口家預かりとなった。
死角となる位置の壁に寄りかかり、その一部始終を聞いている青年が居た。父親と云うには随分若い男であった。
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糖莉 - めっちゃくちゃ面白くて一気読みしてしまいました。最後がとても感動?してグッときました。この作品に出会えてとても良かったです! (2022年1月30日 22時) (レス) @page50 id: b9fd4d8946 (このIDを非表示/違反報告)
獏(プロフ) - 完結されてから時間が経ちましたが、どうしても感想を伝えたくなり書き込みました。すごく好みの作品でした。最後に芥川さんが名前をつけようとするところがグッときて仕方がありませんでした。こんなに良い作品に出会えて嬉しかったです。ありがとうございました (2021年8月7日 18時) (レス) id: e438c140c8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - dekuさん» ありがとうございます!! 完結した今でもこうして感想が来るのは本当に嬉しいです!!敦くんの話はもっと丁寧にやりたかったな〜と思っていましたが話数の都合で断念(-人-) (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - しぇるふぃあ。((芦原晴))さん» 語彙力のある感想に死にそうになってます……一気読みお疲れ様でした本当にありがとうございます幸せです 変わったとはいえ芥川にとって我が子に上手く愛情を注ぐのはきっと難しい事で将来は色々苦悩したりすると思います笑 (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 秋霖時雨さん» ありがとうございます! 彼は自分の事を「卑しい身の上」だと思っている部分は多少なりともあって 自分の血を引いた子供は不幸になる と考えいた芥川が諸々吹っ切れた台詞だったりします(こっそり) (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ(元団子) | 作成日時:2018年10月14日 18時