なかはらさん ページ6
芥川は、眉間に深い皺を刻み、ポートマフィア本部内を歩いていた。不機嫌を体現したような様子の彼に話し掛ける事の出来る者が居たとしたら、それはよっぽどの命知らずか、芥川と対等に渡り合える程の強者だけだろう。
「芥川。後ろにチビくっ付いてんぞ」
「…………中原さん」
中原中也は後者だった。芥川が急に立ち止まったので、先ほどまで彼の後ろを追い掛けていた子供は芥川の脚にぶつかり、尻餅をついた。
「抱き起こすくらいしてやんねェのか?」
中原は、子供の傍にしゃがみ込み、脇に手を入れ立ち上がらせてやった。そして芥川を見上げ、呆れたように言う。
「その童子が勝手に付き纏っているだけです。僕には関係の無い事」
「手前な……事情は聞いてるけどよ。迷子にでもなったら──お、如何した」
中原は言葉を途中で切り、子供と向かい合った。子供に服を軽く引かれたからだ。
「おこしてくれて、ありがと」
子供はぺこりとお辞儀をした。
中原は元来世話好きだ。加え、マフィアではあるが、何方かと言えば常識人の類に入る。故にか弱く幼い生き物が目の前で転べば、助けてやるくらいの温情はあった。
礼を言われて悪い気は当然しない。
「嬢ちゃんは偉いな。もしパパに放置されて迷子になったら、誰かに『中原さんの所に連れてって下さい』ッて言うんだぞ」
「なかはらさん?」
「ああ。まあ、悪いようにはされねェよ」
ポートマフィア幹部である中原の名を上げられれば、そこらの構成員からは、少なくとも蔑ろにされる事はないだろう。中原は自分の名を復唱する子供の小さな頭を撫でた。
突然、子供の体がひょいと持ち上げられる。
「中原さんの手を煩わせるのもめんど……否、心苦しい。世話係の銀に預けてきます。銀が居なければ樋口に」
「手前いま『面倒臭い』って言いかけただろオイ」
芥川が異能力で外套を伸ばし、子供を持ち上げたのだ。子供は特に怯えること無く大人しくしている。その姿は中原に、母猫に首の皮を咥えられて運ばれる子猫を連想させた。中原はそのまま去る親子を見送り──
「それから中原さん」
「何だよ」
「僕は此奴の父ではありません」
「お、おう」
今度こそ本当に去ってゆく芥川と子供を見送りながら、中原は子供に向けて手を振った。子供は無表情に手を振り返した。
おまけ:芥「無駄に冷静装ってたのが腹立たしい」→←かわいそうだといわないで
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糖莉 - めっちゃくちゃ面白くて一気読みしてしまいました。最後がとても感動?してグッときました。この作品に出会えてとても良かったです! (2022年1月30日 22時) (レス) @page50 id: b9fd4d8946 (このIDを非表示/違反報告)
獏(プロフ) - 完結されてから時間が経ちましたが、どうしても感想を伝えたくなり書き込みました。すごく好みの作品でした。最後に芥川さんが名前をつけようとするところがグッときて仕方がありませんでした。こんなに良い作品に出会えて嬉しかったです。ありがとうございました (2021年8月7日 18時) (レス) id: e438c140c8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - dekuさん» ありがとうございます!! 完結した今でもこうして感想が来るのは本当に嬉しいです!!敦くんの話はもっと丁寧にやりたかったな〜と思っていましたが話数の都合で断念(-人-) (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - しぇるふぃあ。((芦原晴))さん» 語彙力のある感想に死にそうになってます……一気読みお疲れ様でした本当にありがとうございます幸せです 変わったとはいえ芥川にとって我が子に上手く愛情を注ぐのはきっと難しい事で将来は色々苦悩したりすると思います笑 (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 秋霖時雨さん» ありがとうございます! 彼は自分の事を「卑しい身の上」だと思っている部分は多少なりともあって 自分の血を引いた子供は不幸になる と考えいた芥川が諸々吹っ切れた台詞だったりします(こっそり) (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ(元団子) | 作成日時:2018年10月14日 18時