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居場所はしらない ページ46

「ねえリンタロー、貴方が死んだら、私はどうなるの?」


鈴のような少女の声。執務机に両手を乗せて、自身は少し伸びをして、エリスはまっすぐ鴎外を見つめる。珍しい質問に鴎外は目をぱちくりさせた。


「そりゃあ、君は私の異能だからね、異能の譲渡でもしない限り、私が死んだらエリスちゃんも消えちゃうよ」


「ずっと一緒だなんて幸福だ!」と破顔する鴎外は無視する事にしたエリスは、「じゃあ、」ともう一つ尋ねた。


「リンタローが病気で……あと余命僅かで、しかも意識は朦朧とし始めてるって時は?」


「私まだ死なないもん……」鴎外は傷ついて顔を手で覆った。
気を取り直し、考え込むように僅かに首を傾げる。


「まあ、実体が揺らいだりだとか、不安定なものにはなるんじゃないかな」


「そう」エリスは目を伏せた。瞼を彩る睫毛までもが金糸色なのは、彼女の輝かんばかりの金髪が天然のものである証だ。鴎外はそれを満足そうに眺める。


「若しかしてお別れが近いのかい? 寂しくなるねぇ」

「別に!」


指摘されたのが照れくさかったのか、エリスは拗ねてふいと顔を背けた。そんな一挙一動も愛らしく、鴎外はより笑みを深くする。


──微弱だが、精神操作の類なのだろう。鴎外とて最初は判らなかった。
その存在を疑問に思う者も、危害を加えようとする者も滅多に居らず、必ず誰かが世話をする。ポートマフィアの拠点を探る目的で作られたのなら話は別だが、幼児にそれらしき素振りは見られなかった為、何処かで自然発生した害のない異能生命体として自由にさせていた。



□□□



敦と敦に似た少年は、病院の中庭に設置されている腰掛台に座っていた。ひらひらと眼前を舞う蝶は、慎重に伸ばされた少年の指に止まる。未来の自分の息子だと思えば可愛いものだ、と敦は微笑ましい気持ちでその光景を眺めた。


「……で、異能者は何処に?」

「あっ、蝶々逃げた」


異能者が居る病室が判らない。
件の異能者に作られたと云う少年はあっさりと知らないと言った。

曰く、気がつけば敦の傍にいて、自分の存在理由も判っている上で敦の前に現れず、可視と不可視の状態を使い分けながら横浜を探索していたらしい。今日はたまたま不可視の状態で観察していた敦が、自分を作った異能者に会いに行くというので姿を現したとの事だった。

兄弟のようにしか見えない僕達が、実はこんな事情を抱えているなんて誰も知らないだろうな、と敦は空を見上げた。晴天、雲一つない。

ゆうやけこやけの(中島敦の場合)→←理由はしらない



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糖莉 - めっちゃくちゃ面白くて一気読みしてしまいました。最後がとても感動?してグッときました。この作品に出会えてとても良かったです! (2022年1月30日 22時) (レス) @page50 id: b9fd4d8946 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 完結されてから時間が経ちましたが、どうしても感想を伝えたくなり書き込みました。すごく好みの作品でした。最後に芥川さんが名前をつけようとするところがグッときて仕方がありませんでした。こんなに良い作品に出会えて嬉しかったです。ありがとうございました (2021年8月7日 18時) (レス) id: e438c140c8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - dekuさん» ありがとうございます!! 完結した今でもこうして感想が来るのは本当に嬉しいです!!敦くんの話はもっと丁寧にやりたかったな〜と思っていましたが話数の都合で断念(-人-) (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - しぇるふぃあ。((芦原晴))さん» 語彙力のある感想に死にそうになってます……一気読みお疲れ様でした本当にありがとうございます幸せです 変わったとはいえ芥川にとって我が子に上手く愛情を注ぐのはきっと難しい事で将来は色々苦悩したりすると思います笑 (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 秋霖時雨さん» ありがとうございます! 彼は自分の事を「卑しい身の上」だと思っている部分は多少なりともあって 自分の血を引いた子供は不幸になる と考えいた芥川が諸々吹っ切れた台詞だったりします(こっそり) (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:こめ(元団子) | 作成日時:2018年10月14日 18時

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