たんていしゃにて ページ43
「あ"ぁ"！」
国木田さんが奇声と共に社のデスクを叩いて立ち上がった。これには太宰さんも驚いたのか「おぉ！？」と片足を上げて変なポーズをしている。
「突然どうしたんですか？」
僕が書類の整理を中断してそう問うと、国木田さんは「……俺としたことが、すっかり忘れていた」と冷や汗を流しながら答えた。
「何をです？」
「天使探しの依頼だ！ 期限が迫っているというのに、何の手掛りも掴めていないではないか！」
「あっ」僕も思い出した。組合の一件で遥か彼方へ吹き飛んでいた。不味いぞ、と云う気持ちが頭の中を支配する。
「乱歩さんに聞く、と云うのは……？」
自分で口に出して、果たして乱歩さんが素直にそれに応じてくれるだろうかと疑問に思った。乱歩さんの超推理を使えば万事解決ながら、とうの彼はあの性格である。
「乱歩さんの才能はこんな時の為に振るわれるものでは……」と暫し懊悩していた国木田さんは、諦めた顔で「少し待っていろ」と言い残して外に出た。
緊張気味の国木田さんと共に乱歩さんの前に立つ。気をつけの姿勢だ。足を机に投げ出してゲーム機で遊んでいた乱歩さんは、面倒くさそうに僕達を見た。国木田さんの手には筒状の袋がある。ちなみに大きさは抱き枕ほど。
「此処に、駄菓子の詰合せが、あります」
「ふうん」
「此度の依頼に、その頭脳を貸しては頂けないでしょうか」
「お願いします！」
「いいよ。丁度駄菓子の備蓄も切れてたし」とあっさりと引き受けた乱歩さんに、深々と下げていた頭を勢いよく上げる。
「天使とやらを発現させる異能者の居場所でしょ？ まったく君達は鈍臭いなぁ！」
国木田さんから受け取った駄菓子を開封しながら、乱歩さんは嬉々として眼鏡を取り出した。
何も述べてはいないのに依頼の詳細をぴたりと当てた事に驚くのはもはや野暮と云うものだろう。多分。
「その異能者は此処に居る。それと、本人は自分が異能者だって事を知らない」
広げた地図の中から乱歩さんが指差したのは、横浜の郊外にある市立病院だった。「あとは自分で確かめなよ」と乱歩さんはひらりと手を振ってお茶を取りに行った。
「ご協力有難うございます乱歩さん。……敦、行くぞ」
国木田さんがその背中に九十度のお辞儀をした。はい、と返事をしようとして、扉から「ああそうだ」と顔を覗かせた乱歩さんに遮られる。
「敦一人で行け。危険は無いよ、僕が保証する」
おはこんにちは(中島敦の場合)→←おはよう(芥川龍之介の場合)
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糖莉 - めっちゃくちゃ面白くて一気読みしてしまいました。最後がとても感動？してグッときました。この作品に出会えてとても良かったです！ (2022年1月30日 22時) (
レス) @page50 id: b9fd4d8946 (このIDを非表示/違反報告)
獏(プロフ) - 完結されてから時間が経ちましたが、どうしても感想を伝えたくなり書き込みました。すごく好みの作品でした。最後に芥川さんが名前をつけようとするところがグッときて仕方がありませんでした。こんなに良い作品に出会えて嬉しかったです。ありがとうございました (2021年8月7日 18時) (レス) id: e438c140c8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - dekuさん» ありがとうございます！！ 完結した今でもこうして感想が来るのは本当に嬉しいです！！敦くんの話はもっと丁寧にやりたかったな〜と思っていましたが話数の都合で断念（-人-） (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - しぇるふぃあ。((芦原晴))さん» 語彙力のある感想に死にそうになってます……一気読みお疲れ様でした本当にありがとうございます幸せです 変わったとはいえ芥川にとって我が子に上手く愛情を注ぐのはきっと難しい事で将来は色々苦悩したりすると思います笑 (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 秋霖時雨さん» ありがとうございます！ 彼は自分の事を「卑しい身の上」だと思っている部分は多少なりともあって 自分の血を引いた子供は不幸になる と考えいた芥川が諸々吹っ切れた台詞だったりします(こっそり) (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こめ(元団子) | 作成日時：2018年10月14日 18時
