かわいそうだといわないで ページ5
真夜中、仕事を終えた芥川兄妹は帰路に着いていた。
「銀、本当に連れて帰るのか」
「うん」
芥川の厭わしげな視線は、仕事着から私服に着替えた妹の腕の中で眠る幼子に注がれていた。自分と同じ色味の瞳は、今は子供の毛髪と同じく白い睫毛に覆われ、確認できない。しかし、恐らく誰もが芥川とその子供の血縁関係を疑わないだろう。
「……誰かが面倒を見ないと」
そうだった。何も無い所から突然現れた子供──痕跡が掴めないのだ。いつからそこに居たのか、どうやってあの場に足を踏み入れたのか。
余りにも出自が妙であった為、流石の芥川も首領に相談をした。結果、何らかの異能力を受けた、もしくは本人が異能を持ち合わせている可能性があるとして、原因が解るまで誰かが一時預かりを、という話になったのだ。
誰が?
やはり父親(仮定)の芥川? 危険だ。
女性の樋口? 彼女の精神が持ちそうに無かった。
黒蜥蜴の誰か? 読み書きより先に銃や刃物の扱いを学んできたような奴等の集まりだ。女児の世話には向いていない。
首領に? 別の意味で危険だ。
立候補したのは銀だった。『私が面倒を見ます』と、普段は全く喋らない銀が(自分の性別を隠す為だが)、紙に書いてまで意思表示をしたので、その場にいた彼等はこれ幸いと銀に子供の世話を命じた。
表情にこそ出さなかったが、それに焦ったのは芥川だ。
一部の人間しか知らない事であるが、彼等は兄妹であり、同じ家で共に暮らしている。銀が子供を連れて帰るというのなら、必然的に子供は芥川と頻繁に顔を合わせる事になる。芥川は一連の流れを思い出し、ため息を吐いた。
「ね、見て。こんなに可愛い」
銀の言葉を聞いても、芥川には自分によく似たその子供が可愛いとは思えなかった。ただ、己の卑しい血を引いているかもしれない幼子を哀れに思うのみである。
363人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
糖莉 - めっちゃくちゃ面白くて一気読みしてしまいました。最後がとても感動?してグッときました。この作品に出会えてとても良かったです! (2022年1月30日 22時) (レス) @page50 id: b9fd4d8946 (このIDを非表示/違反報告)
獏(プロフ) - 完結されてから時間が経ちましたが、どうしても感想を伝えたくなり書き込みました。すごく好みの作品でした。最後に芥川さんが名前をつけようとするところがグッときて仕方がありませんでした。こんなに良い作品に出会えて嬉しかったです。ありがとうございました (2021年8月7日 18時) (レス) id: e438c140c8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - dekuさん» ありがとうございます!! 完結した今でもこうして感想が来るのは本当に嬉しいです!!敦くんの話はもっと丁寧にやりたかったな〜と思っていましたが話数の都合で断念(-人-) (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - しぇるふぃあ。((芦原晴))さん» 語彙力のある感想に死にそうになってます……一気読みお疲れ様でした本当にありがとうございます幸せです 変わったとはいえ芥川にとって我が子に上手く愛情を注ぐのはきっと難しい事で将来は色々苦悩したりすると思います笑 (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 秋霖時雨さん» ありがとうございます! 彼は自分の事を「卑しい身の上」だと思っている部分は多少なりともあって 自分の血を引いた子供は不幸になる と考えいた芥川が諸々吹っ切れた台詞だったりします(こっそり) (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:こめ(元団子) | 作成日時:2018年10月14日 18時