えいえい おこった? ページ40
組合の手によりQの異能を利用された時分、あの幼子は非力な構成員と共に外に居たらしい。幼子には怪我が無く、また己から何か言う事も無かったが故に、僕がその事を知ったのは、件の構成員が平身低頭で詫びに来た時であった。
「判らぬ。何故それを僕に謝る?」
長い謝罪が鬱陶しくなり、半ば遮るように返した言葉にその構成員は困惑していた。面倒で呼び名の訂正は諦めつつあるが、抑は素性の知れぬ子だ。怪我でもしていない限り報告の義務は無いだろう。
何故か想起された記憶を頭の隅に押し遣る。そんな事は如何でも良い。武装探偵社とポートマフィアが同盟を組んだお陰で、組合の空艦隊に、人虎が単独潜入すると云う情報を樋口より伝え聞いた。つまり人虎を殺す又と無い好機。
先回りの手筈を整えていると、いつの間にやらあの幼子が傍に来ていた。騒ぐ事も無いので何時もなら好きにさせている所だが、今は何故か気が散る。名も知らぬ構成員の声が脳内で響く。
『心配では、無いのですか』
「お前に構う暇は無い。向こうへ行っていろ」
子供はそれを首を振って拒んだ。
『父親でしょう?』
声が鳴り止まない。子供がそれに被せるように僕を呼んだ。
「おとうさ、」
「五月蝿い!」
此奴が僕に付き纏うのも、僕を父と呼ぶのも何時もの事だ。だと言うのに、それが今は心底気に喰わなかった。感情のままに怒鳴りつけた僕をただ見上げる子供の瞳は凪いでいるようにも、悲哀を湛えているようにも見える。僕は己が異能を子供に向けている事に気が付いた。
お前が父と仰ぐ男は、こうして簡単にお前を傷つける。判ったら早く去れ。早く。
□□□
娘の為、妻の為、家族より価値のあるものはないと全てを擲った組合の長は、空を泳ぐ白鯨より落ちて消えた。
手に入れた端末で白鯨の降下を防いだ人虎は脱力し甲板に膝をついている。余りに無防備なその姿に苛立ち殺してやりたくなったが、己の体とて既に限界を訴えており、結局人虎の頭を踏みつけるに留まった。
──子供があれから何処へ行ったのか、あまり記憶に無い。伸ばした手を払われ、暴力の片鱗すら翳された幼子は、あの時何を思ったのだろうか。
「要らないとは、言わなかったんだね」
気配すら悟らせず幼い少年は其処に現れた。驚愕する僕を見て笑っている。何時かの人虎に似た少年は、少しの心配を滲ませ地に伏す人虎を見下ろし、霧のように掻き消えた。
「お前何時まで人の頭踏んでる心算!?」
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糖莉 - めっちゃくちゃ面白くて一気読みしてしまいました。最後がとても感動?してグッときました。この作品に出会えてとても良かったです! (2022年1月30日 22時) (レス) @page50 id: b9fd4d8946 (このIDを非表示/違反報告)
獏(プロフ) - 完結されてから時間が経ちましたが、どうしても感想を伝えたくなり書き込みました。すごく好みの作品でした。最後に芥川さんが名前をつけようとするところがグッときて仕方がありませんでした。こんなに良い作品に出会えて嬉しかったです。ありがとうございました (2021年8月7日 18時) (レス) id: e438c140c8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - dekuさん» ありがとうございます!! 完結した今でもこうして感想が来るのは本当に嬉しいです!!敦くんの話はもっと丁寧にやりたかったな〜と思っていましたが話数の都合で断念(-人-) (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - しぇるふぃあ。((芦原晴))さん» 語彙力のある感想に死にそうになってます……一気読みお疲れ様でした本当にありがとうございます幸せです 変わったとはいえ芥川にとって我が子に上手く愛情を注ぐのはきっと難しい事で将来は色々苦悩したりすると思います笑 (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 秋霖時雨さん» ありがとうございます! 彼は自分の事を「卑しい身の上」だと思っている部分は多少なりともあって 自分の血を引いた子供は不幸になる と考えいた芥川が諸々吹っ切れた台詞だったりします(こっそり) (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ(元団子) | 作成日時:2018年10月14日 18時