わるいこ いらんこ ページ29
夜ふかしをしていた子どもが、怪物に連れ去られてしまうと云う話だった。
「『おばけになって、飛んでいけ』」
久作がそう締めくくって絵本を閉じると、子供は「こわいね」とだけ述べた。
「そう？ �猊櫃き瓩辰討椶�よくわかんない」
「つれていかれて、きえる。こわい」
元来の性質なのか、子供の表情はあまり変わらなかったが、拙くとも言葉を交わせる相手が居る事に喜びを感じている久作にとって、それはどうでもいい事だった。
「消えるのが怖い？」
ぼくはこの異能力ごと消えてしまいたいと思うのに、とは言わなかった。
久作が嫌いなものは自分自身であるが、久作が好きなものもまた自分自身だ。その相反する自己愛と自己嫌悪に理解を示す者に、久作は会えた事がない。故にこの幼子に言ったところで意味は無いと思ったのだ。
代わりにかけたのは慰めの言葉だ。誰かぼくにも優しい言葉をかけて、ついでに頭を撫でてくれる人が居たらいいのに。まあ無理だろうけど。
「でも、夜ちゃんと眠ればお化けは来ないんでしょ？ 君が良い子にしてればいいんだよ」
「きゅうもいいこ？」
久作は、笑顔で「勿論！」と答えてやろうとした。しかし、思うように笑えず、震える声で呟く。
「ぼくだって………良い子にしてれば、きっと外に………」
そうだ、ぼくは我が儘を言わない�爐┐蕕き畛劼世�ら、えらいのは良い子だから、ぼくはこの子に呪いをかけて遊ばなきゃ──
「やめろ、Ｑ」
地を這うような低い声が聞こえ、久作は子供に伸ばした手をびくりと震わせた。だが直ぐに、むっとした顔で声が聞こえた方を振り返る。
「なんで邪魔するの！」
「其奴を手前の好きにさせねえ為だ。嬢ちゃん、其処は危ねぇから此方来な」
不思議そうに子供が久作を見る。久作は拗ねたように「知らない。あっち行けば」と中原の方を指さし、そっぽを向いた。子供は来た時もそうしたのだろう、鉄格子の隙間を通り抜け中原の下に駆け寄った。
「見張りが目え離した隙に入り込みやがって……体に痣は無いな？」
違った。あの子はぼくに壊され弄ばれ消費される玩具なんかじゃなかった。だってほら、あんなに優しい顔で声をかけられて抱き上げられて、それを当たり前みたいに享受してる。
「またね、きゅう」
「二度と来ないで！」
夢野久作はこの後、首領の指示により望み通り外に出る、つまり座敷牢から解き放たれる事になるのだが、今のところ本人は知る由もない。
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糖莉 - めっちゃくちゃ面白くて一気読みしてしまいました。最後がとても感動？してグッときました。この作品に出会えてとても良かったです！ (2022年1月30日 22時) (
レス) @page50 id: b9fd4d8946 (このIDを非表示/違反報告)
獏(プロフ) - 完結されてから時間が経ちましたが、どうしても感想を伝えたくなり書き込みました。すごく好みの作品でした。最後に芥川さんが名前をつけようとするところがグッときて仕方がありませんでした。こんなに良い作品に出会えて嬉しかったです。ありがとうございました (2021年8月7日 18時) (レス) id: e438c140c8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - dekuさん» ありがとうございます！！ 完結した今でもこうして感想が来るのは本当に嬉しいです！！敦くんの話はもっと丁寧にやりたかったな〜と思っていましたが話数の都合で断念（-人-） (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - しぇるふぃあ。((芦原晴))さん» 語彙力のある感想に死にそうになってます……一気読みお疲れ様でした本当にありがとうございます幸せです 変わったとはいえ芥川にとって我が子に上手く愛情を注ぐのはきっと難しい事で将来は色々苦悩したりすると思います笑 (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 秋霖時雨さん» ありがとうございます！ 彼は自分の事を「卑しい身の上」だと思っている部分は多少なりともあって 自分の血を引いた子供は不幸になる と考えいた芥川が諸々吹っ切れた台詞だったりします(こっそり) (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：こめ(元団子) | 作成日時：2018年10月14日 18時
