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しろやぎさんから ページ25

「敵に手紙を書こう!」


何事かを考え込んでいた鴎外は、突然弾んだ声でそう言った。エリスが画用紙に思い思いの絵を描いている様を、そばに寝そべり見つめていた子供の視線は、不思議そうに鴎外に向けられる。にこりと微笑んだ鴎外は、「君のお父さんにも仕事だよ」と子供の頭を撫で、エリスが使わず床に転がして放置しているクレヨンを拾い上げると、再び机に向う。


「やぎさん」

「ふふ、若しかしたら読まずに食べられてしまうかもね。……いたっ、エリスちゃん痛いよ、ちょ、」

「返しなさいよー!」


真っ赤なクレヨンで紙にすらすらと文字を綴る鴎外の背中を、怒ってぽかぽかと殴りつけるエリス。そんな二人から外された子供の視線の先には、まだ何も描かれていない画用紙と、使われずに箱に収まったままの黒いクレヨンがあった。



□□□



「あ、そうそう。芥川君、良い物を上げるよ」

「はあ……」

「開けてご覧」


先までの緊迫した雰囲気は何だったのか。
朗らかな笑顔を浮かべた首領に差し出された一枚の紙を、適当に返事をしながら受け取る。持って行けと云う事なのだろうか、懐に入れやすくするためか、綺麗に四つ折りにされたそれを、何の感慨も無く開いた。



「斑の……黒い、犬……? 何ですか、之は」


幼子趣味の首領が常に傍に置き愛でている少女が描いたものでは無いだろう。首領の興奮の度合いがまるで違う。加え、今の彼は愛児の自慢がしたくて堪らないといった様子でも無ければ、惚気けたいと云う訳でもなさそうだ。


「直接渡したら、とは言ったのだけどねえ……どうも照れくさい様で、君が来る前に何処かへ行ってしまったよ」

「何の──」


話でしょう、と続けようとした所で、合点が行く。あの子供。此処に来る途中すれ違い、『おしごとがんばって』と言われた事を思い出した。気楽なものだ、と対して気にもとめずいたが、『しごと』とは、先程首領により命じられた組合の拠点の襲撃の件だったのか。


「君を描いたらしいよ。帰ったら褒めてやると好い」

「……之が僕には、見えませぬ」


なんの躊躇もなく抱擁を強請り、誰の真似事か仕事の労いの言葉すら掛けられる癖に、たかが落描きのような拙い似顔絵を渡すのを恥ずかしがるとは。

良く見れば、黒く塗り潰されているのは、僕が常に身に纏っている外套に見えない事もない。髪らしきものの毛先は白く塗られている。

之が己とは思えない。
知らずに上がっていた口角から、気の抜けた息が漏れた。

彼に権利は存在するか→←おしごと



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糖莉 - めっちゃくちゃ面白くて一気読みしてしまいました。最後がとても感動?してグッときました。この作品に出会えてとても良かったです! (2022年1月30日 22時) (レス) @page50 id: b9fd4d8946 (このIDを非表示/違反報告)
(プロフ) - 完結されてから時間が経ちましたが、どうしても感想を伝えたくなり書き込みました。すごく好みの作品でした。最後に芥川さんが名前をつけようとするところがグッときて仕方がありませんでした。こんなに良い作品に出会えて嬉しかったです。ありがとうございました (2021年8月7日 18時) (レス) id: e438c140c8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - dekuさん» ありがとうございます!! 完結した今でもこうして感想が来るのは本当に嬉しいです!!敦くんの話はもっと丁寧にやりたかったな〜と思っていましたが話数の都合で断念(-人-) (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - しぇるふぃあ。((芦原晴))さん» 語彙力のある感想に死にそうになってます……一気読みお疲れ様でした本当にありがとうございます幸せです 変わったとはいえ芥川にとって我が子に上手く愛情を注ぐのはきっと難しい事で将来は色々苦悩したりすると思います笑 (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 秋霖時雨さん» ありがとうございます! 彼は自分の事を「卑しい身の上」だと思っている部分は多少なりともあって 自分の血を引いた子供は不幸になる と考えいた芥川が諸々吹っ切れた台詞だったりします(こっそり) (2019年6月30日 13時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:こめ(元団子) | 作成日時:2018年10月14日 18時

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