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大きな箪笥に囲まれた暗く湿っぽい空間。天井に小窓が一つ。獪岳はふわふわ舞っている埃を目で追いかけながら、指をしゃぶっている。
Aは畳に転がした獪岳の足首を持ち、交互に動かしていた。
「獪岳のあんよ、小さくてかわいいね」
「んっ、あう」
「かわいいねえ」
Aは考える。
──まだ赤子の今ですら、ときどき部屋に閉じこもっているように言われるのだ。ひょっとしたら、獪岳は一人で歩けるようになっても、家の中をあまり自由に歩かせてもらえないかもしれない。
病床に伏せるようになった老人が、そのまま死んでしまうことが多いのは、起き上がり方を忘れるからだそうだ。
獪岳はそんなに忘れっぽくないと思うけど、それでも動かさない部位は不自由になっていくものらしい。
Aはビッコの歩行を見たことがあった。杖を使ってひょこひょこ歩き、Aの兄弟や村の子供たちはそれを容赦なく馬鹿にした。障碍ゆえの歩き方を真似され、背を縮めて歩く跛をAは可哀想に思った。
かわいい獪岳がそんな可哀想な目にあうのは、とても悲しいことだ。
だからAはこうして、獪岳の足を動かしてやる。獪岳の足が不自由にならないように。
「誰よりもはやく走れるようになろうね、獪岳」
「んあっ」
きゃあーっ、と明るく笑った獪岳に、Aは思わず笑顔になった。
納戸の入口付近に細い光が差した。
重たそうに開いた戸の先には、獪岳よりは大きく、Aよりは幼い女の子がいる。彼女は、あのやや乱暴な少年の妹である。
おままごと用のお椀を抱えた少女は、Aの姿を見つけるとぱっと笑った。
「ねえや、あそんでぇ」
「いいですよう」
獪岳に似た、黒目がちの目がにこにこ笑ってこちらに来る。うす暗い納戸のなかにためらいなく入ってきた少女は、Aの前に、おままごと用の漆塗りの立派な茶碗と、お庭でつんできたらしい花や雑草を並べ始めた。
獪岳が手を伸ばせば届く位置に、紫式部の果実がザラザラと置かれる。獪岳が間違って食べないように、Aは手を仕切りのようにして紫色の果実の位置を少しずらした。
「やっ! それはここ!」
彼女なりのこだわりがあるらしい。果実はすぐに同じ場所に戻された。
「そうなの。ごめんね、文枝ちゃん」
Aは畳に寝かせていた獪岳を背負い、彼女の前に座り直した。
文枝──獪岳の姉にあたる子供は、Aの背中でAの耳をひっぱる獪岳を肩越しにジッと見つめた。
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契ゐと(プロフ) - ああ、可愛いがすぎる…獪岳が推しなのでこんな素敵な小説があって嬉しいです (2021年8月17日 12時) (レス) id: 86212c8490 (このIDを非表示/違反報告)
月狐(プロフ) - あぁあぁ!!!最高すぎます!!この小説の獪岳くんはめっちゃ可愛い。「獪岳嫌い」って人おるけど、私は大好きすぎてやばいレベルです。獪岳くん好きか他にもいて良かった…。更新待ってます!!! (2020年12月26日 15時) (レス) id: 8c0c53f143 (このIDを非表示/違反報告)
善逸、獪岳くんしか勝たんよ~。 - 獪岳推しです♪可愛い過ぎる!死ぬよ死ぬ! うーとかさ、とにかく獪岳の全てが可愛いから。大人になった今はクソイケメン過ぎて辛い!早く続きお願いします!獪岳が好きな理由分かります (2020年11月11日 22時) (レス) id: b6d5995114 (このIDを非表示/違反報告)
マナ - 獪岳の成長を読みながら見守っていきます(笑)更新楽しみにしています!頑張って下さい! (2020年10月26日 16時) (レス) id: e03751a58e (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - マナさん» マナさん、コメントありがとうございます!似てますかね…(意識してなかった)人から指摘されて気づくこともあるので嬉しいです!2日に1度くらいのペースで更新しますのでお付き合い頂ければ幸いです(*´ω`*) (2020年10月24日 11時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ(元団子) | 作成日時:2020年10月19日 23時