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「だぁあ」
「はいはい」
背中で暴れだす動く獪岳に頭を叩かれながら、Aは炊事場の端っこに置かれた握り飯と漬物を頬張る。他の下男や下女はとっくに食事を終わらせていた。
「おう、坊。薄い粥の上澄みは美味かったかい。
……ちょ、あんた、邪魔だよ。掃除がしにくいったら」
「
急いで飯を腹におさめ、外へ出る。
Aは日が高く昇るまでに、獪岳のおしめと、家の者の汚れ物を洗濯しなければならない。
分限者の家は良い、わざわざ川まで行かなくても、家に井戸が掘られているのだから、とAはつくづく思う。
釣瓶で汲んだ水を盥に移し、汚れ物を水に浸す。
「おしめが綺麗になってうれしいねえ、獪岳」
「んやぁ」
肯定だか否定だかわからない獪岳の返事を聞きつつ、布をざぶざぶ洗う。
Aとて細っこい子供である。獪岳を背負ったまましゃがんで洗い物をするのは、Aにとっては重労働だ。
「この子かわいさ、かぎりなし……」
子守唄を小さく口ずさみながら洗濯物を叩いてシワを伸ばすAのふくらはぎに、軽い衝撃があった。
Aが後ろを振り返ると、同じくらいの男子が憮然と立っている。
彼が蹴ったのだろうなあ、とAはのんびり思う。
彼は、獪岳の兄か従兄弟にあたるはずの少年なのだが、やっぱり獪岳を嫌っていた。
「なんのご用?」
「今日は客がくるから、四時になるまでそいつは奥の納戸に置いとけって、母さんが」
「私、時計は読めないです。空がなに色になったらヨジ?」
少年はフン、とAを馬鹿にして鼻で笑うと、父親からもらった懐中時計をAの眼前につき出した。
「この長い針がここまできたら四時だよ、馬鹿女。空は橙色だ」
「はァい。獪岳、今日は納戸で遊ぼうね」
反り返りそうになっていた獪岳を背負いなおして盥を持つ。
盥を片付けに行こうとするAの前に、少年が立ちはだかった。
「お前、駄菓子屋で鉛筆かってこい。すぐ必要なんだ」
「でも、獪岳が……」
家から駄菓子屋までの道のりは遠い。徒歩で、それも赤子を背負って行くとなると、戻る頃には夕方近くである。獪岳を四時まで隠す、という言付けを守れなくなってしまうのだ。
「そいつは置いていけばいいだろ」
「できません。まだ赤ちゃんだから」
「……生意気だ!」
「ぁいたっ」
少年はむっとした顔でAの頭をポカリと殴り、憤慨した様子で屋敷の中に戻った。
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契ゐと(プロフ) - ああ、可愛いがすぎる…獪岳が推しなのでこんな素敵な小説があって嬉しいです (2021年8月17日 12時) (レス) id: 86212c8490 (このIDを非表示/違反報告)
月狐(プロフ) - あぁあぁ!!!最高すぎます!!この小説の獪岳くんはめっちゃ可愛い。「獪岳嫌い」って人おるけど、私は大好きすぎてやばいレベルです。獪岳くん好きか他にもいて良かった…。更新待ってます!!! (2020年12月26日 15時) (レス) id: 8c0c53f143 (このIDを非表示/違反報告)
善逸、獪岳くんしか勝たんよ~。 - 獪岳推しです♪可愛い過ぎる!死ぬよ死ぬ! うーとかさ、とにかく獪岳の全てが可愛いから。大人になった今はクソイケメン過ぎて辛い!早く続きお願いします!獪岳が好きな理由分かります (2020年11月11日 22時) (レス) id: b6d5995114 (このIDを非表示/違反報告)
マナ - 獪岳の成長を読みながら見守っていきます(笑)更新楽しみにしています!頑張って下さい! (2020年10月26日 16時) (レス) id: e03751a58e (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - マナさん» マナさん、コメントありがとうございます!似てますかね…(意識してなかった)人から指摘されて気づくこともあるので嬉しいです!2日に1度くらいのペースで更新しますのでお付き合い頂ければ幸いです(*´ω`*) (2020年10月24日 11時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ(元団子) | 作成日時:2020年10月19日 23時