ひそひそ話 ページ7
「……よく寝てる」
「……そうだね」
布団の中で安らかに眠りこける子供から少し離れた場所で、鏡花と敦は小声で喋る事に専念した。
「捜索願いの出てる行方不明者の情報と照らし合わせて、とりあえず身元を探るんだよね? もし判らないままだったら……」
「……此処は社員寮だから、いつまでも此処に置けない。孤児院に預ける事になる」
孤児院。その響きに敦は顔を顰めた。全部が全部そうという訳ではないのは知っている。だが、敦にとって孤児院とは過酷で辛い場所という認識なのだ。
「そう云えば鏡花ちゃん。布団はどうするの? 鏡花ちゃんの布団はAちゃんに貸しちゃったよね」
「構わない。一緒に寝る」
寝間着の鏡花が子供の隣に潜り込む。子供は少し眉をしかめたが、寝ぼけ眼で鏡花の腕を抱いて再び目を閉じた。鏡花は満足そうに微笑み、敦は彼女達は本当に今日が初対面なのだろうかと疑問に思った。
「御休み、二人とも」
「御休み」
消灯。フッと暗くなった部屋で敦は押入れの襖を閉めた。敦は押入れの下段を寝床にしているのである。
■
色素の抜け落ちた白い睫毛が数度瞬きを繰り返す。瞼を開けた子供は眼球を動かし、隣で眠る少女と、青年が眠る押入れの方を見た。規則的な寝息の他に音は一切せず、双方就寝しているのだとわかる。子供は人肌で温もった布団から抜け出し、建付けの悪い窓をできる限り静かに開けた。
子供は背後を振り返り、少女が眠ったままでいる事を確認した。それから下を覗き込み、躊躇うことなく窓から飛び降りた。
砂利を踏むかすかな音は、壁の薄い下宿で眠る社員達を起こすには及ばなかったようである。
「──、」
建ち並んだ住宅の隙間から、夜の闇の中でも煌々と灯を放つビルが向かい合うようにそびえ立っている様が見える。子供はそれを一瞥し、夜の帳が落ちた街を歩き出した。
■
押入れの隙間から淡い光が差し込み、敦は壁に腕をぶつけないように器用に伸びをした。直後、スパンと小気味の良い音をたてて襖が開かれ、驚いて飛び起きた敦は天蓋に頭を打ち付けてしまった。
「おはようございます」
「痛た………おはよう……」
正座をしてそんな敦を見つめるのは、昨日から共に暮らす事になった子供だ。まもなく子供は鏡花に呼ばれ、其方に行ってしまった。「豆腐に刻み葱かけて」「……そう、上手」等といった鏡花の声が聞こえ、厨の方からは味噌汁と炊きたての白米の良い匂いが漂う。朝餉だ。
179人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時