仲は尊し 部屋は狭し ページ6
【鏡花はその日、一足先に社員寮に帰った。夕刻に何も知らぬ敦が帰宅。鏡花は敦と子供を対面させた。】
「今日から一緒に住む事になった」
「へえ、そうなんだ! 宜しく…………ん?」
敦は凝り固まった笑顔のまま「僕も一緒に?」と訊ねた。鏡花がそれを首肯し、隣の子供の背に手を添えた。
「この人は敦」
「……あつし」
子供は薄桃色の襦袢を着て、鏡花の隣に寄り添うように控えている。恐らく鏡花が子供に貸したのだろう。敦はその襦袢が鏡花の気に入りだったと記憶していた。
それを貸しても構わないと思えるような何かが、この二人には既に形成されている。自分より幾らか年少の子供を気遣う鏡花と、鏡花に大幅の信頼を寄せているらしい子供。仲良しの姉妹のようなその姿に、敦は一人円の外に捨て置かれたような疎外感を覚えずにはいられなかった。
が、それよりも。
「いやいやいや! 急すぎるよ鏡花ちゃん。大体何でその子芥川に似てるの!?」
「それは私にもわからない」
「彼奴、もう一人妹がいるのか? でも銀さんは何も……」
一目惚れをした相手が芥川の妹だった──花袋が恋文を渡した時の騒動を思い出しながら、敦は独り言のように呟いた。
「あつし」
服を引かれ、敦は其方を見下ろした。子供は澄んだ瞳で敦を見上げている。そう云えば彼奴(芥川)は世の闇を煮詰めたような目をしていたなと敦は思った。
「不束者ですが」
子供はぺこりと頭を下げ、敦は咄嗟に鏡花を見た。鏡花の瞳にははっきりと『返事をしろ』と書いてある。
「……ウン、宜しくね」
敦はぎこちなく片手を出したが、握手という行為を知らない子供は差し出された敦の右手を不思議そうに見つめるのみだった。
□□□
豆腐の味噌汁と蓮根の煮物。今の時期は鮎が旬だ。脂がのっていて美味しい。
「おかわり」
「良く食べるなあ……」
血縁者かと見まごう程芥川に似てはいるが、何の事は無い。ただ無口なだけの子供だ。それも大食いの。
差し出された空の茶碗を受け取りついでに敦は自分の茶碗にもふっくらと炊けた白米を盛った。食べ盛りの十代である。
「おいしい」
「有難う」
短い言葉の応酬を交わし、鏡花も茶碗を敦に差し出した。最初こそ何となく此方を警戒していた子供が、思いのほか早くそれを解いた事に驚く一方、敦の心配事は大食いの少女二人にかかる食費が今月の給料に少なからず響きそうだと云う点だ。
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時