お腹へってたから ページ47
戸籍不明の子供なんてよくある話さ。事件性ナシとされてしまった以上、調査を続ける理由が私達には無い。
国木田は太宰の意見に頷いた。敦は孤児院という言葉に表情を翳らせたものの、他に選択肢がある訳でもなし。反対はしなかった。鏡花はただ静かに皆の意見を聞いていた。
□□□
少し涼しくなった夏夜、太宰は下宿所の駐車場の脇で枝を茂らせる大木を見上げた。ガサガサと音をたて、青い葉を頭につけた子供が顔を出す。
「やァAちゃん。何食べてるの」
「セミ」
「すぐ吐き出せ莫迦」
太宰は思わず普段のおちゃらけた口調を崩したが、子供は気にした素振りもなく太宰に話しかけた。
「孤児院ってどんな所なんだ」
「親が居ない子供達が集団で生活する福祉施設だよ。其処に居る大人達を先生と呼んで……そうだな、君は集団行動が苦手そうだから屹度苦労するよ。蝉とか食べる子だし」
子供は枝にしがみついたまま太宰の話を聞いていた。
君に根気よく付き合って、受け入れてくれる人が居れば良かったのにね、と云う言葉の意味はよく分からなかった。
「鏡花ちゃんが君に向けるそれは執着だ。国木田君なんか良いかもしれないけど、彼はまだ若─」
「どこにある?」
どこ、と云うのは、己が行く予定の孤児院の場所の話である。太宰は少し考え、地名を伝えても子供には判らないだろうと判断した。
「ずっと北の方だよ。この近隣は君に似た顔が悪い意味で有名だから、遠地の方が佳いんだ」
「そうか」
子供は枝にぶら下がり、紙巻タバコのフィルターを咥える太宰を見た。太宰はポケットから燐寸箱を取り出し、燐寸を一本擦って火をつけた。箱にはLupinと書かれている。
子供は何でもない顔をして言った。
「寂しくなるなぁ」
「君を送り出す私が云う台詞じゃないかい、それ」
太宰は子供を見上げ、笑った。
「良い事を教えてあげよう。君がこの街を去るのはもう少し先の事になる。
それと、独りに慣れる練習なんかするだけ無駄だ。今は鏡花ちゃんと敦君の元に居なさい」
「バレていたか」
子供は綺麗に着地し、寮の外階段を駆け上がった。それから鏡花と敦と暮らす部屋に入る直前、太宰を振り返った。
「太宰さーん」
「なーにー?」
「明日ナオミが花火を持ってくると言っていた。とても綺麗だそうだから、太宰さんもやろう」
太宰は曖昧に微笑み、扉が閉まるまで聞こえる賑やかな後輩達の会話を背に煙を吐き出して、明日は無理だろうな、と思った。
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時