かなしい? ページ38
胸を裂く此れは欣喜、か?
ならば何故こんなにも悔しい、いや憎い? 何に対してだ、「一緒に居たい」と言われた。けれど他人なのだ。此奴にとって、僕は何時までも。
「芥川さん?」
子供は黙り込んでしまった芥川の顔を眺め、不思議そうにした。
「疲れたのか?」
返事はない。
「悲しいのか?」
子供はしばらく逡巡し、芥川の手を握った。思考に沈んでいた芥川の意識はそれで呼び戻された。
骨ばった手の甲で、子供の柔い頬を撫でる。
「……どうした」
「誰かに触れてると和らぐ悲しさもある、と太宰さんが言ってたんだ」
その直後、国木田に「子どもに妙な事を教えるな」と後頭部を引っぱたかれていたが。
昼間の賑やかな探偵社を思い出すと、暗闇に佇む芥川の孤独が浮彫になる。子供はそれを放置するのは気が引けた。
「悲しい、か……」
芥川は弱く手を握り返した。子供の瞳には、困ったような男の顔が写っている。
「そうだな。もう暫く、僕と共に居てくれるか」
□□□
住処といえば畳の社員寮しか知らぬ子供は、混凝土打ちの部屋を珍しそうに眺めた。
「此処が芥川さんの家か」
「少し違う。僕の住処は別にあり、それ以外にも幾つか拠点……部屋を借りている。此処はその一つだ」
芥川が『拠点』を『部屋』と言い直した意味はよく考えず、子供は感嘆の声を漏らした。
外套の皺を伸ばし壁のハンガーに掛けた芥川は、「汗で濡れた衣服が不快だろう」と子供を振り返った。
「簡易的だがシャワー室がある。使え」
「風呂か! 湯汲みは好きだ」
「浴槽は無い」
芥川は数枚置いてある自分の着替えの中から、柔い生地のTシャツを抜き取って子供を脱衣所に連れて行った。
「芥川さん、あのな」
「?」
子供の真正面に膝を着いた芥川は、同一の高さから注がれる真剣な眼差しに首を傾げた。
「自分で脱げる」
「……すまん」
芥川は子供の上衣の釦を外していた手をそっと離した。やや緊張した面持ちの子供がほっと肩の力を抜いたのを見て、芥川は形容しがたい羞恥に襲われた。
「本当に悪かった。気を抜くと幼児扱いを……」
「よ……? 脱ぐことには変わらないから釦は閉め直してくれなくてもいいぞ」
子供の言葉は耳に入っていないのか、黙々と釦を閉じる芥川の手元を見つめ、子供は寮とは違う造りのシャワー室を見遣った。湯はどの蛇口を捻れば出るのだろう。
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ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです!最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです!癒されました〜! (2019年8月25日 23時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん! お久しぶりですね! そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー!ありがとうございます これからもお付き合いください! (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが!きになりすぎます!!応援していますー!頑張ってください! (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:こめ | 作成日時:2019年6月22日 21時