その理由 ページ24
「逃げてきたんだ」
机上のお冷を見つめ、子供は深刻な顔で呟いた。指名手配されている芥川に似ているとなれば、人から誤解を受ける事もあるだろう。銀はふと気の毒になった。
「誰からだ」
芥川が静かに問う。子供は外套の裾を掴んで答えた。
「鏡の前で次々と服を変えられるんだ。私がもう嫌だと訴えても皆やめてくれない。与謝野さんもナオミも鏡花もすぐ終わると言った！ 言ったのに！」
出てきた名前には覚えがあった。確か武装探偵社に所属する女社員達の名だ。『鏡花』と云う名に至っては、かつて兄の部下であった少女のものだ。
まあ、ともかく、銀は子供の外套の下がやたら真新しい理由を理解できた。要は着せ替え人形にされていたのだ。何故この子供が武装探偵社と関わりがあるのかは判らないが。
「じゃあ、この子は後で彼女達の処に帰して……」
「僕の家に来るか」
「兄さん？」
幼女誘拐はやめて欲しい。兄は冗談でそう云う事は言わない。つまりこの発言は本気だ。
銀は料理を運ぶ給仕を目で追いかける子供を眉を下げて見つめた。顔が似ていると云う理由だけで、ここまで執着するものだろうか。
「ずっと気になっていたんだが」煤色の瞳が銀に向けられる。銀は次の言葉を促すように小首をかしげてみせた。
「あの人は、人の元に食糧を運ぶだけで、何故自分では食べようとしない」
銀は思わず瞬いた。子供の顔や口振りに諧謔や揶揄の色はない。本気で訊いているのだ。
「この水もそうだ。人数分あるが、一つは私が飲んでもいいのか？」
「……別の飲料も注文出来るが」
銀はもう一度子供を見た。綺麗な少女の肢体。貧民街の孤児だとはとても思えない。頬は血色もよく、この子供が何処かで健康に育てられた事は明白だった。だというのに、飲食店に初めて入ったかのような言動をする。十程度の子供で、そこまで知識がないものだろうか。
芥川は暫く悩むように視線を彷徨わせ、子供に問うた。
「A、例えば、鏡花は猫を探して居ただろう。あれは他人の所有物だ。だのに何故鏡花は見ず知らずの他人の為に必死になれた？」
「……わからん」
「其が奴の仕事だからだ。鏡花は任務を遂行し、対価として金銭を貰う。それは此処に居る彼等にも同じ事。金を対価に人に食事を提供する」
「それが�狷�く�瓠�」
「そうだ」
なるほど。子供は腑に落ちた顔で呟いた。
「これだけ大勢の人間が、衝突も諍いもなく集団で生活できるのは、そのおかげだったのか」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 179人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「文豪ストレイドッグス」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ロト - こめ(元団子)さん» お久しぶりです！最近わりと多忙でした…少し時間が空いてきたので見てみようと思えば結構更新されてて嬉しかったです！癒されました〜！ (2019年8月25日 23時) (
レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - ロトさん» ロトさん！ お久しぶりですね！ そうです娘主は奔放な子供なので自由に遊び回っては国木田さんに叱られ 最終的には追いかけ回されますw (2019年8月25日 22時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
ロト - 近所迷惑(社員寮)……つまり、国木田さんの胃痛が増すんですね分かります。 (2019年8月25日 1時) (レス) id: 84710b8cd8 (このIDを非表示/違反報告)
こめ(元団子)(プロフ) - 来霧さん» やったー！ありがとうございます これからもお付き合いください！ (2019年8月19日 2時) (レス) id: a3e8a2be57 (このIDを非表示/違反報告)
来霧(プロフ) - 続きが！きになりすぎます！！応援していますー！頑張ってください！ (2019年8月17日 0時) (レス) id: cc1c1fbc8a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：こめ | 作成日時：2019年6月22日 21時
