最愛の本丸のはなし (ページ16)

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役員の苦労⑥ ページ16

あちこちから様々な声が聞こえる。子供の声、大人の声、笑い声、怒鳴り声、泣き声。
騒がしい場所は苦手だ。女性役員は眼鏡をクイ、と上げる。
彼女は政府の刀剣男士専用保護施設を訪れていた。件の刀剣男士に会うため…ではない。ここに務める一人の職員に会うためである。

通路ですれ違った何名かの職員や刀剣男士に目的の人物の居場所について聞きつつ、施設を一周しようかという程歩いた頃、彼女は遂に、かの人物の後ろ姿を発見した。中腰になり、秋田藤四郎、前田藤四郎と会話をしている。
暫く話した後、二人が会釈をしながら駆け足気味で離れていった。そこで、その職員はやっと彼女に気がつく。これまた黒縁メガネをかけた、しっかりした体格の男性職員。40代半ば、とは周囲が勝手に言っているだけで、彼の本来の年齢は誰も知らない。

「おや、ご無沙汰していますね」
「お久しぶりです…さっきのは？」
「ああ。それぞれ周防国と肥後国の本丸から保護した子達でして。人に慣れるのも早かったのですが、彼らの面倒をよく見てくれていた一期一振がいるんです。その一期一振が、明日付けで晴れて新規本丸への所属が決まったものですから、お祝いと今迄の感謝を伝えたい、と」
「はあ、なるほど」
「私に相談に来たものですから、クッキーのレシピを教えてあげたんです。上手くできたから、と余分に作ったものを持ってきてくれたんですよ。ふふ、可愛らしいですよね」
そう言って、男性は緑色のリボンで結ばれた包を掲げて見せてくる。透明な袋のため、中に幾つかクッキーが入っているのが見えた。

「相変わらず、刀剣男士を猫可愛がりしているのですね」
「もちろん。可愛い息子のようなものですから。もう天職ですよ」
へらり、と笑う。
そういう所が苦手なのだ、と悪態をつきたくなったが、それよりも仕事が先だ。咳払いと、また眼鏡を上げ、資料を差し出しながら端的に告げる。

「貴方に、担当役員として就いて頂きたい本丸があります」
「え？私に？いいんですか？」
「何かと事情ありきな本丸のようで…残念ながら、私には貴方以外に任せられそうな人物が思い浮かびませんでした」
「なるほどなるほど。ええ、ええ。もちろん喜んで！お受けしますよ」

男は予想通り、資料を見もせず二つ返事で了承した。あっさりすぎて怖いくらいだった。
「それで？いつから着任させて頂けるのですか？いつその子達に会えるんです？」
「とりあえず、資料に目を通しておいてくださいね！」

不安だ…