乱戦中 ページ7
＊
Aはタフで耐熱性に優れるうえに再生能力まであるが、決して荼毘は彼を盾のようには扱わない。
天気に恵まれた本日の再臨祭。
ミスターはAの手を引いて、有象無象の雑魚敵から逃げるために走っていた。背後では周囲を気にしない馬鹿どもの強力な個性が大暴れしている。炎と氷のカーニバルってか？喧しい。
逃走には長けているが、乱戦での有効な攻撃手段を持たないミスターはこの場ではお荷物。早々に戦う仲間たちの背中に隠れる準備をしていた。
荼毘は最後の最後まで悩んでいたが、結局ミスターにAを託して氷使いを相手取ることを決めた。
ミスターが意外に思ったのは、Aが荼毘から離れることに良い顔をしなかったことだ。
荼毘は真顔がデフォルトのAを「表情豊か」と表現する。マジシャンとして観察が得意なミスターを含めた連合の誰もがそれを肯定しなかったが、今ならわかる。確かにAは不満げな表情を浮かべていた(そして荼毘はひどく嬉しそうな顔をしていた。幸せそうで何よりだ)。
「はァっ、し、っつけーな！」
意味を理解していないだろうAがこくりと頷く。
Aは口がきけない。声帯に問題があるのか、精神的な問題なのかは知らないし知りたいとも思わない。ツギハギだらけの青年と行動を共にする子供なんて、ロクな理由を持っていないだろう。
ミスターとAたちが出会ってから数ヶ月が経つが、今日まで言葉をしっかりと理解している様子はなかった。
声のする方に顔を向けたりこちらの問いかけに頷いたりすることはあるものの、それ以上の反応がないのだから、察するしかない。
言ってしまえば、Aはちょうど今のミスターのようなお荷物である。
しかし、それでもあの人間関係に淡白な荼毘が大事に大事にしていることには興味が引かれるというものだ。きっと、ミスター以外のメンバーも思っていることだろう。
「ったく！おっさんの息切らせて楽しいかよっ！」
正面から飛んできた大きなナットを横に逸れて躱す。手を繋いでいるため、急な遠心力にAの軸がぶれて足がもつれた。
まずい、とミスターが義手側を差し出そうとする前にAは繋いだ方の手でミスターを抱え、もう片方の手で地面を弾いた。ぐるんっと視界が回って、縦に一回転し終えたときには、ミスターはAに横抱きされていた。
「？…？？………………」
子供に運ばれる大人は、仮面の下で考えることを放棄した。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 176人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
緑猫(プロフ) - 廃部させ隊さん» こちらこそ、最後まで読んでいただきありがとうございます！楽しんでいただけたようで何よりです;; (2021年12月16日 21時) (
レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
廃部させ隊 - ﾊｯﾊｯﾊｯ(過呼吸)好きｯｯ作者さんありがとうｯｯ (2021年12月16日 20時) (レス) @page17 id: 4296e190f8 (このIDを非表示/違反報告)
緑猫(プロフ) - み゜さん» コメント＆最後まで読んでいただき、ありがとうございます！最後は想像にお任せします…笑 ハッピーエンドになっていれば良いですね＾＾ (2021年11月29日 19時) (レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
み゜ - お、お、終わったぁぁぁ！！！？！凄く考えさせられる終わり方好きです。夢主くんはどうなってしまったのかぁ！気になる……完結お疲れ様でした。 (2021年11月28日 22時) (レス) @page17 id: b6bcf1174f (このIDを非表示/違反報告)
緑猫(プロフ) - 朝陽さん» 前作に引き続き、コメントありがとうございます！共依存ものが好きなのだなあと思う今日この頃です。今作は荼毘の一方通行ですが笑 ゆっくり書いていきますので、お待ちいただければと思います！ (2021年11月15日 23時) (レス) id: dd1c3e784a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：緑猫 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/personal.php?
作成日時：2021年11月13日 11時
