10話 ページ10
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「俺が……アマッポという仕掛け罠に掛かって、毒で動けないところをアイヌの人達に助けられたんだ」
「その脚なら今日でも戻れたのではないか?」
「恩を……返したかった……」
緊張しているのか谷垣は浅く息を吐いた。
「……玉井伍長達も戻ってないんだが、行方を知っているか?」
「いいや、不審な猟師を追ってる途中にはぐれた」
「そうか……。しかし気になることがある、村へ案内してほしい」
谷垣は頷き、アイヌの子供達を呼び集めた。
嘘は付いていないように思える。
「恩、返せるといいな……」
自身が“人の優しい気持ちを大切にしたい”と思ってしまうのは、悔恨の念からなのかもしれない。
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「ここが世話になっている村だ。話しをしてくるからAは少し待っていてくれ」
そういって家の中へ入っていった谷垣の「おばあちゃん、ただいま」という声が聞こえてくる。
“ただいま”とはいつから言っていないのだろうか、といつぞの思い出がAの脳裏をかすめた。
少し待っていると微かに谷垣ではない男の声が耳に入る。
何か違和感を覚え、もしやと奥へゆっくりゆっくり足を進めれば、次第に覚えのある声がはっきりと聞こえてきた。
「いま……自分の銃を見たのか?」
──やはり尾形だ。
「銃に飛びついてもこれがなくては使えんぞ」
そう尾形が言えば部屋の中には重く殺伐とした空気が澱みだす。
「尾形上等兵殿……どうかこの人達だけは……」
──谷垣の緊張した声。
「一般人だ、殺すな」
拳銃を構えながらそう言って部屋に踏み入れば尾形と二階堂がいた。尾形は動じず、にやりと笑う。
「おいおい……どう考えてもお前が不利だろう?」
Aは周囲に目をやる。尾形は小銃を手元に置いており、二階堂はアイヌの老女へ拳銃を向けていた。それに対して丸腰の谷垣と、拳銃を構えてはいるが接近戦に向かないA。状況は不利だった。
(それでも……見逃せないだろう!一般人だぞ!)
強い眼差しをよそに尾形は遊底をぐるぐると回して笑みを浮かべる。
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ra(プロフ) - プスメラウィッチさん» しがない字書きにコメントありがとうございます🙇とても元気をもらえました。実はこのサイトで文章トレスされてしまっていたようで、もうここには投稿しない方針で考えています。pixi⚫︎の方などに投稿するか検討しているのでその際はお知らせいたします (1月31日 22時) (レス) id: e3ec8bd41f (このIDを非表示/違反報告)
プスメラウィッチ(プロフ) - 続きの更新頑張って下さいね😆応援しています。 (1月31日 15時) (レス) @page26 id: b10205217f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ra | 作成日時:2021年5月13日 1時