1話 ページ1
ここは北海道、小樽近辺の山中。
そこで独り、軍服に外套姿で口元に傷のある女が歩いていた。
「こりゃ早く帰って汁物にありつきたい……」
冷える外気にぽつり独り言をこぼし、彼女は鼻元を隠す様にして襟巻きを引き上げる。そうして雪が積もる道とも言えぬ道へその足取りを進めてゆく。
──しかしながら彼女、襟巻きで鼻先まで覆っていて目元しか出ておらず、軍服の上からフード付きの外套を着込み、さらには小銃を担いでいるもので、見た限りでは女と判断するのに難しい成りであった。
そんな彼女が何故独り雪積もる山の中にいるのか。それは数時間前に遡る──。
「Aちゃん、君に……“単独で行動している尾形上等兵”を追って欲しいんだ」
Aの目の前にいる男はそう言うとハンカチを手に取り、自身の額に滴る液体を拭う。
「……尾行だけでしょうか?」
「まずは様子見だぁ……くれぐれも死なれんように」
「はい」
(どうやら鶴見中尉は尾形上等兵を泳がせたいらしい……)
Aは武器庫まで向かうと必要になる装備を手に取り第七師団の兵舎を出た。それが数時間ほど前のこと。
そうして請け負ったはいいものの未だに尾形上等兵を発見できず身体もすっかり冷え切ってしまっていた。
──とその時、数発の銃声を聞く。
(撃ち合っている?……少し距離が遠いな)
大凡の距離感を掴み、急いで移動する。
(聞こえた銃声から三十年式歩兵銃、あとは二十六年式拳銃か?とにかく尾形がいる可能性は高い)
Aは見込みの場所へやってきたが周辺には川があるだけで人影は無く、当てが外れてしまった。
この辺りでなかったのだろうかと周囲を見渡すも大きな痕跡は見つからない。
気乗りしないがこの崖の上へ行って見渡してみるか、と考えていると「バシャリ」と今よりも下流の方で水の音がした。見やれば川岸に這い上がってる人…軍服からして尾形上等兵だろう。
これはまずいとAは慌てて駆け出す。
この寒さである、あんなに濡れた状態では直ぐに暖を取らないと危険だった。少し距離はあったが側まで駆け寄り強く声をかけてみる。
「おい!意識はあるか!!?」
尾形は薄く目を開けたかと思うと気を失ったようだった。
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ra(プロフ) - プスメラウィッチさん» しがない字書きにコメントありがとうございます🙇とても元気をもらえました。実はこのサイトで文章トレスされてしまっていたようで、もうここには投稿しない方針で考えています。pixi⚫︎の方などに投稿するか検討しているのでその際はお知らせいたします (1月31日 22時) (レス) id: e3ec8bd41f (このIDを非表示/違反報告)
プスメラウィッチ(プロフ) - 続きの更新頑張って下さいね😆応援しています。 (1月31日 15時) (レス) @page26 id: b10205217f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ra | 作成日時:2021年5月13日 1時