書くな！ ページ29
〈王子！時間がない！かなり無い！どうしよう！！〉
急いで部屋に戻ってきた王子に、その文字を見せた。王子の瞳孔が開いているのが見える。
王子は手をぶんぶん振って、身振り手振りで叫んだ。
「ももも、も、もう書くな！あいづちだけしろ！時間がないんだ！」
私は口を勢いよく閉じて、大袈裟に頷いてみせた。
「ち、ちょっと、待て…今考えてる…」
もう一度頷いたが、それは王子には見えていなかったらしい。視界には入っていたのに。
王子が考えている間に、私は忘れないようにメモをとる準備をした。
残り20秒。
「………よし！」
私達は大きく見開いた目をがっちりと合わせた。
「あんたは俺の手伝いのためにこの部屋に来た。キュアランの洋服製作のだ。俺があんたに、あの布の山から探し物を見つけて欲しいと頼み、あんたは従った」
王子はかなり早口になっていた。私の書くメモは急ぎ過ぎてぐちゃぐちゃで、ぱっと見だと何と書いてあるのかなんて一文字も分からなさそうだった。
「山の中にあった埃を飲み込んでしまって、アウトだ。…‥これで終わり」
分かった、という意味を込めて、私はグッドサインをした。
「だいぶ適当な粗筋になったから、詳しく聞かれたら機転をきかせて応えるしかないよ。……あ〜〜、来た。はぁ……」
5、6人の荒い足音が部屋の外から聞こえた。私達は少し身構えた。
ノックを2回鳴らし、お医者さんと看護師さん数人と、最後にクロムが部屋に入って来た。
「大丈夫ですか、イナコの王女様！さ、ここに寝てください」
さすが医者。慣れた様子で私を担架に寝かせてくれた。クロムと看護師さんが私を担架ごと持ち上げた。メア王子が珍しく｢何か手伝おうか｣と言っていたけど、国の王子が人の看病をするというのもあれな話だしと丁重に断られていた。病人(推定)である私との接触を避けるため、王子は部屋で待機することになった。
そのまま看護室に運んでもらうと、やはり1分程度で到着した。担架からベッドにずれる。シーツは真っ白で汚れひとつない。少し汚い想像だけど、もしここで吐いたりしたら慰謝料を請求されそうだと思った。
看護師さんが医者の方へ行くと、クロムが私に近寄ってきた。私は身構えた。クロムは私の表情を見て、何を考えているのか分かった様だった。眉を下げながら、私の額にそっと触れた。
｢酷い熱だ。…色々聞きたいことはありますが、回復が最優先です。その後のことは気にしてはいけませんよ｣
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作者名：べっこう飴 | 作成日時：2019年1月26日 0時
