【ダメプリ】攻防戦 (ページ26)

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知るな！ページ26

『はるらしいよ…』
「［春らしい］？…いや、違う、［恥ずかしい］って言ったのかな」

えっ、春らしい、なんて聞こえたんだ。私の耳にはちゃんと恥ずかしいって聞こえるのに。
うーん…自分じゃ分からないのって不便だなぁ。いつ治ったか分からないってことだもんね。
困った…。

メア王子とずっとゆっくり喋っていたら、気付いたら出口に到着していた。出口から見える景色は紫色が多かった。きっとメア王子の部屋なんだろう。
出口に私を先に行かせようと、王子がこっちを向いてくれた。

「ほら。先」

これ以上恥ずかしい喋り方をしないようにと、私は慎重に言葉を発した。

『あ……り、ぐっ……が！と！』

……よし！［が］が難しかったけど、結構うまく言えたんじゃないかな？

「へへっ………どういたしまして」

め、メア王子が笑ってる…！と、いうことは…
まだ治ってないんだ！！

『ああ～…』
「そ、そんなに落ち込むなよ。筆談でも良いから」

やがてメア王子は本と布の山から、紙を１枚と万年筆を2本持って来た。万年筆はペン先以外全部ガラスでできていたから、青と桃色のインクがシャンデリアの光に反射してキラキラ輝いて見えた。私は桃色のインクの万年筆を手に取り、筆談を始めた。

〈ありがとうメア王子！〉

王子も青の万年筆を持って紙に何か書こうとしたように見えたが、書く前にピタリと動きを止めて万年筆を置いてしまった。私は王子が急に怒り出したのだと思って身構えたが、そんなことはなかった。

「あー…、よく考えたら、おれは別に普通に喋れば良いんだよな」

……た、たしかに！

「えっと、アンタさ、今、喋れてないじゃん」
〈うん。どうやったら治るんだろうね～。〉
「のんきだな…一応医者を呼ばせるからそれは良いんだ。その前に…」

逸らされっぱなしだった目をもっと逸らされた。
彼の目線は彼自身の左手に移った。気付いたら王子の手にはキュアランの人形がいた。
王子は人形をガン見しながら顔に近づけ、口を人形で隠した。

「あの通路はクロムでも教えられていない王族専用の隠し通路なのよ！つまり、貴女が知ってはいけなかったの！」

私はびっくりして返事を書けなかった。かわりに「なぁっ」と訳の分からない高い声を出してしまった。
王族専用の隠し通路を、他国の姫が知ってしまった。この国では王族は神にも値する地位にある。私はこの国の神を侮辱したのと同じだ。
どうしよう、どうしよう…、最悪、死…………っ。