焼き付けるな！ ページ25
その粉末の正体を理解した途端、口の中に気持ち悪い感触がぞわぞわ広がった。反射的に背筋がぴんと伸びた。
一気に吐き気が押し寄せてきた。気持ち悪い…。
メア王子はとても心配そうに私を見つめていた。何をすればいい、おれがどうにかするから、と、普段の様子からは想像できないような優しさを見せつけてきた。しかし、今の私はそれを目に焼き付けることが出来ないほど余裕が無い。
『お、ぅじ、……っは、……は、きそ………』
「は、吐っ……！？ま、ま、ま、任せろ！！」
王子は心細そうにそう言うと、腕をまくり、私のドレスの後ろをガッと掴み、メア王子が来た方向へ進んだ。
なかなかに苦しいし、急にこんなことされると首が締まって危ないから、いつもだったら怒ってるけど、今はメア王子の不器用なところがとてもありがたかった。
『お…じ、あり……と』
王子、ありがとう！
本当に感謝してるよ……。
すると、メア王子が振り返って眉を上げてきた。
「……気付いてないんだろうけど、アンタさっきからぜんぜん言葉発せてないよ。何となく解るからまあ良いけど」
『む！？』
驚いた私が声を上げると、メア王子の抑え気味の笑い声が聞こえた。
不思議だなぁ。私自身からは普通に聞こえるんだけどな。メア王子にはおかしく聞こえてるのか…。
いや、そんなこと、ある？
あ！！もしかしてこれって王子の嘘なんじゃない？ひ、ひ、ひどい！
『うしょうあなぃれよ……うぇ』
「い…今のは、嘘付かないでよ、だよな…。………はぁ。嘘じゃ無いからな？」
うーん………嘘か本当か見極めがつかないなぁ…。うーーん……。
ここに嘘発見機でもないかしら…？いや、あるわけないよね。
そうこう考えていると、ふと王子の荒い呼吸音が聞こえてきた。かなり息が上がっていそうだ。そりゃあそうだろうな。人間ひとり抱えてこんな狭ーい通路を這ってるってだけでもしんどそうだし、何よりあのメア王子だからね。従者さんが全然部屋から出るのを見ないって言ってたもん。極度の運動不足なはずだよ。
『………』
…こんなに頑張ってる人を疑うのもなぁ…。
『…ひぅから、ことあへえな…？』
「……ええと？…あ、ああ。［いつから言葉変だった？］って言ってるのか…。いつからって、そこで会ったはじめからだけど』
そ、そんな前から！？うわぁ、恥ずかしい！！！！
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作者名：べっこう飴 | 作成日時：2019年1月26日 0時
