けじめ ３９ ページ40
「愛している」
其の五文字を口にした瞬間、彼女が私のもとを離れてしまうのが漸く理解できた。何も云わずAは椅子から降りて私に背を向けた。
何も無かったかのように、歩き始めた。薄暗い店内に流れる1800年代の音楽は誰の心を映し出しているものか。私たち…否もしかしたら全くの他人かも知れない。出口の前で彼女は足を止めた。
『太宰さん。…"愛していました"』
こちらを決して振り向かなかった。その声は震えていた。その為背を向けられていても彼女の表情は簡単に読み取れた。私は何も云わず、彼女にも目を向けずただ静かに目を閉じて酒杯をちびちびと仰いだ。Aが埋めてくれていた心にはぽっかりと穴が開いてしまい、私は人知れずひっそりと涙を流した。
___________
『中原幹部、昇格おめでとうございます』
ポートマフィアでは太宰が抜けた後間も無く五代幹部のうち一人が亡くなり中原がその席に座ることとなった。
「手前も今日から準幹部補佐から幹部補佐へ昇格だな」
中原はAの髪の毛をさらりと撫でた。
『変ですかね？』
「否。俺は結構好きだぜ」
『ありがとうございます』
Aの胸の下あたりまで伸びていた髪の毛は肩上までバッサリと切られていた。Aは髪の毛を無意識に耳にかけるとサファイアのピアスがキラリと光を反射した。
「お、似合ってるじゃねェか。ソレ」
『中原幹部がくださったので…』
そう云ってAは微笑んだ。Aの視線の先…中原の耳にも同じものが付いていた。それは昇格祝いと称して中原がAにあげたものだった。
幹部昇格とは云え仕事上特にこれといって何か変わる事がある訳ではなくほんの少し業務が増えるだけだった。机の上に積み上がる資料や承諾書は相変わらずだった。
『却説、今日も仕事頑張りましょう！』
「あ？改まって急にどうした」
『いいえ。特に意味は無いです』
Aは窓をガラリと開けた。外からは初夏の訪れを告げる爽やかな風が舞い込んだ。中原はその姿を見つめた。その瞳は愛しきものを見る視線だった。
太宰が抜けた事でAが彼について何か触れる事はなかった。太宰がAへ好意を持っていた事は誰もが知る事実だったがAが持っていた太宰への気持ちはごく僅かの人間しか知らなかった。無論、中原も例外ではなかった。
(俺は彼奴みたいな愛し方はしねェ___必ずこの手で守り抜く)
中原の気持ちを天はつゆ知らず、四年後事態を複雑に絡めて行くばかりであった。
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nemucan427(プロフ) - 桜雪さんはじめまして！この作品面白くて大好きです お手数ですがパスワードを教えていただけないでしょうか？ (9月1日 21時) (
レス) id: 8afaa5b029 (このIDを非表示/違反報告)
なずな(プロフ) - 桜雪さんはじめまして！とても面白かったですよろしければパスワードを教えて頂きたいです (2023年3月28日 11時) (レス) id: 77590b4a4c (このIDを非表示/違反報告)
アルルの「 」 - 太宰さんの歪んだ愛し方が本当に大好きです・・・！！ (2023年3月13日 1時) (レス) @page41 id: a35ce8017e (このIDを非表示/違反報告)
嶺亜(プロフ) - 桜雪さんはじめまして!!作品とても面白かったです。よろしければパスワード教えていただきたいです。よろしくお願いします。 (2023年2月5日 18時) (レス) @page10 id: be050932d4 (このIDを非表示/違反報告)
霞奈斗(プロフ) - この作品に出会ったばかりなのですが、とても面白く続きを読みたいです！パスワードを教えて頂くことは可能でしょうか...？( ˊᵕˋ ;) (2023年2月5日 8時) (レス) id: c32082b1c8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：桜雪
| 作成日時：2018年3月29日 13時
