刺繍 ページ18
放っておいても自分で着れた平助を撫でて(暗に身長を馬鹿にしつつ)褒めていると、散髪室から総司が出てきた。
今まで結っていたせいで見る機会は少なかったが、元来彼は癖のある猫っ毛だ。
それが切りたてというのも相まって、ピョンピョンと自由本舗に跳ね回っていてなんだか可愛いような、そして新しい彼の髪型に惚れ直してしまうような。
平助の時はそんなに気にならなかったのに、総司だと妙に目が行く。
そんな視線に気がついたのか、総司は己の洋装を手に私のもとへと歩み寄ってきた。
「A、僕の髪型どう?」
「髪が跳ねてて可愛いよ」
「・・・」
すっごく微妙な顔されたが、これは私の本心だ。
身振り手振りで着るように促すと、微妙な顔を固定したまま千鶴に気を遣って別室へと動き出した。
・・・シャツが無いおかげか迷うことなく着ることができたようだ。
着替え終えた総司は他の者たち同様窮屈そうにしてはいたが、刺繍の入った陣羽織を物珍しそうに見ていてそれどころではないらしい。
「へー、総司の洋装って鯉の刺繍が入ってんのな!」
「・・・縁起物だな」
「俺たちのとはちょっと違うがするが・・」
その場にいた幹部たちの視線が土方さんへと向けられる。
土方さんは少し照れたような、居心地が悪そうにしながら彼らしからぬぼそぼそとした小声でわけを話した。
「総司が一番を背負う男だからってのもあるんだが―――その、なんだ、Aとの今後をだな・・・」
「・・鯉は、古来より激流をさかのぼりあらゆる障害を克服できる魚と信じられている。
副長は総司にそのような人間になれと願いをこめてこの刺繍をつけたということか」
「さ、斎藤!勝手に解説してんじゃねえ!」
「へーえ。・・まあ、祝福してもらえてるんだったらありがたく頂戴しますよ。
Aと一緒なら、どんな障害だって越えられる自信はありますけど」
「ほんっと、おあついよな」
「平助、そうひがむなって。お前にもそのうちいい女ができるさ」
「・・・左之さんに言われると余計にひがみたくなるよ」
どっとその場に笑いが起きた。
戦前とは思えないほど、私たちの間には和やかな空気が流れていた。
この後酷い結末が待っていることは皆うすうす感じ取っていたはずなのに・・・。
・・・いや、感じていたからこそ今この時間を大切にしたいと無意識に思って、今までどおりに明るく振舞っていたのかもしれない。
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まんさ(プロフ) - justforyou7nanaさん» コメント、リクエストありがとうございます! 番外いいですね!作ってみたいと思います!(*'ω'*) さすがに18禁は制限がかかるので無理ですけどね笑 (2017年4月1日 10時) (レス) id: 9f423a56ec (このIDを非表示/違反報告)
justforyou7nana(プロフ) - この小説の番外編も見てみたいです!18 禁もみてみたいな笑 (2017年3月30日 8時) (レス) id: 4203d4d0a3 (このIDを非表示/違反報告)
まんさ(プロフ) - 弓 桜さん» ありがとうございます!嬉しいです! (2016年3月10日 21時) (レス) id: ab7e40fe20 (このIDを非表示/違反報告)
弓 桜(プロフ) - まんささん» 見に行きます♪ (2016年3月10日 20時) (レス) id: 484d75b51c (このIDを非表示/違反報告)
まんさ(プロフ) - 詩音舞さん» ありがとうございます! (2016年3月10日 19時) (レス) id: ab7e40fe20 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まんさ | 作成日時:2015年8月4日 22時