交渉 ページ30
一の笑顔を見ることができてから数日―――。
仕事と称して(実際仕事だが)一日中町へ出かけていく私に、土方さんは「午前中に仕事をすませろ」と言ってきた。
仕事と言っても基本は町人の会話に聞き耳を立てているだけだから帰ろうと思えば帰ることができるし、なんら問題ない。
今日の成果はおじさんたちの相撲に対する愛や意見がわかったくらい。
・・・なんの役にも立たなさそうだ。
ちょうど昼時に戻ると、いつもは誰かしら出払っているはずなのに広間には局長と副長を除く、幹部全員が集まって食事の時を待っていた。
「おっA!おかえりー!」
「ただいま。・・・平助、皆そろってるなんて、なにかあるの?」
「・・・なんか、土方さんが話したいことがあるっぽいぜ?」
「皆土方さんに呼ばれてきたのか・・・」
お膳も皆の分がそろっていることだし、私も席につくことにした。
いつもと同じ総司と一の間に座ると、平助の「いただきます!」を筆頭にそれぞれ手を合わせ「いただきます」と言って食べ始めたのだった。
ある程度食べ終えてきたところで、総司の箸が不自然な動きをしていることに気づく。
彼の箸の先にあったのは―――葱焼きだ。
「・・・」
―――そういえば、かなり嫌いなんじゃなかったか。葱。
私は端(はた)から見ればおかずを取るように見せかけて、彼の見つめる葱焼きを根こそぎ取った。
「・・・もーらいっ」
「あっ―――」
普段おかわりもなにもしない私が取った事に驚いたのか、彼は驚いたような顔をしていたが、名残惜しむような顔はしていなかった。
取った葱焼きを食べた後、小声で
「嫌いなんでしょ?葱」
「・・・嫌いです」
「嫌いなものが塊で出たら私も嫌だしね。
・・・そのかわり、後で稽古付き合いなさい」
「はい、もちろん付き合いますよ」
にこやかに小声での会話をすませると、私たちはまた何事もなかったかのように食事を始めたのだった。
―――この交渉現場に気づいたものは誰もいなかった。
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薄夜 - うん。面白いね。再新、頑張って (2014年10月10日 19時) (レス) id: 3978161a67 (このIDを非表示/違反報告)
クルエル(プロフ) - 続編おめでとうございます!これからも更新頑張ってください♪(*^_^*) (2014年10月5日 23時) (携帯から) (レス) id: 3cb9714877 (このIDを非表示/違反報告)
まんさ(プロフ) - 練蓮さん» ありがとうございます(*^-^*)精一杯頑張らせていただきます! (2014年10月5日 22時) (レス) id: 2db9cb813e (このIDを非表示/違反報告)
練蓮(プロフ) - 続編おめでとうございます!更新楽しみに待ってます(*^◯^*)頑張って下さい!!! (2014年10月5日 17時) (レス) id: ddc6e25d6f (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まんさ | 作成日時:2014年10月5日 14時