10000hit記念話 "出会い"其ノ壱 ページ48
それは私がまだ幼かった日のこと。
たしか、その日は快晴だった―――。
「皆、聞いてくれ!三日前、わが道場に入った子だ!」
近藤さんがそう言って、稽古中の私たちを集めた。その近藤さんの隣にいたのが
「名を沖田宗次郎と言う。皆仲良くしてやってくれ!」
「・・・よろしくお願いします」
なんとも細っこい男の子だ。
腕や足もそうだし、首も女の私でもあそこまで細くはない。
・・・体つきとは裏腹に、その子の瞳は射抜くように鋭い力強さと美しさ、気高さがあった。
その翡翠の瞳は警戒心を隠すことなく、道場の門下生たちをにらんでいる。
兄弟子さんたちは皆、彼の態度が気に入らなかったらしく、彼に気さくに接しようとする者は少なかった。
稽古もひと段落すると、私は翡翠の瞳の彼に会いに行くことにし、子供には広く思える道場を一回り。
しばらくしても見つからず、私は井戸で顔でも洗ってこようと井戸に向かっていた。
―――そこに彼はいた。
廊下からじゃ、死角になっている井戸の影にしゃがみこんで、膝を抱えている。
・・・そりゃ見つからないわけだ。
彼に近づいて「体調でも悪いのか」とたずねようとしたら、
彼が必死に、嗚咽(おえつ)をかみ殺していたことに気づいた。
「うぅ・・・あねっぅえっ・・・」
近藤さんが皆に説明していたことの通りなら、彼は半ば口減らしのためにここに預けられたようなものなのだろう。
しかも、知り合いも、頼れる者もいないところに一人。
両親がいて、帰る場所のある私が、彼にかけてあげられる言葉なんてなかったし、言っても彼の心には響かないだろう。
ただ、汗をかいた体が冷えないようにと持ってきた羽織をかけてあげることしかできなかった。
かけると、当然のことながら彼は驚いて振り返り、警戒心をむき出し私をにらみつけてきた。
「っ!?・・・あ、あなたは?」
「自己紹介してなかったよね、私は天野A。気軽にAって呼んでね、宗次郎君」
羽織はそのままに、さっさとこの場を退散して道場へと戻った。
日も暮れ始めて、住み込みでない門下生は皆帰った頃。
私は一人、道場の冷えた床に座って太陽の"赤”が夜の"群青"に染められ行く様をただ見つめていた。
今日道場に来た翡翠の瞳の子――宗次郎君とは、結局ろくに話せなかったな。
・・・せっかく、同じ年頃の子が入ったっていうのに。
空が完全に"群青"に染まった頃、両親が迎えに来たので私は道場を後にした――。
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まんさ(プロフ) - MMさん» 面白いなんて、とても嬉しいです! (2016年3月10日 21時) (レス) id: ab7e40fe20 (このIDを非表示/違反報告)
MM(プロフ) - どっちも面白すぎて、ヤバイです(^O^) (2016年3月6日 23時) (レス) id: db2d6bf4c4 (このIDを非表示/違反報告)
まんさ(プロフ) - MMさん» こちらも見に来ていただけるとは!ありがとうございます! (2016年3月6日 23時) (レス) id: ab7e40fe20 (このIDを非表示/違反報告)
MM(プロフ) - 沖田かっこいい(#^.^#)小説めっちゃ面白い! (2016年3月6日 23時) (レス) id: db2d6bf4c4 (このIDを非表示/違反報告)
まんさ(プロフ) - はるかさん» ご指摘ありがとうございます!本編では"総司"のままだった気がしたのでそのままにしたのですが・・・。一応直しておきます!これからもこの小説を温かい目で読んでやってください(´ω`) (2015年3月25日 7時) (レス) id: 647a4018e9 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まんさ | 作成日時:2014年8月14日 22時