だけどこんなに君が好き《part.3》【ARS N】 (ページ3)

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95.彼と、私のうた。ページ3

翔「っし」

「時間ですね」

翔「うん」

近頃はスーツにスニーカーを履いてリュックを背負うサラリーマンも増えているし、別にそれも悪くないと思っていた。

でも櫻井さんは、ちゃんと磨かれた革靴を履いて、黒い革カバンを手にする。

ｰｰｰｰｰあぁ…わかってる。

勿体ないことしてるのなんて、わかってんのよ。

翔「ありがとう」

差し出された手を取る。

「ありがとうございました」

翔「今ならまだ間に合うよ？(笑)」

「…」

翔「往生際悪いね(笑)ごめんごめん。」

そうして、

込められた力が弱くなるのを感じて離そうとした手が

不意にまた引き寄せられる。

翔「お詫びついでにいいこと教えてあげる」

「ん？」

翔「…アイツ、待ってるよ」

「……？」

翔「腕もげる勢いで飛行機に手ぇ降ってやるよって。腹立つよなぁ、自分が呼んだくせに(笑)」

「…え」

翔「行っておいで。」

その言葉と共に、今度は呆気なくその手を離して

櫻井さんは私に背を向ける。

「あ、のっ………！」

翔「笑って見送れるかわかんねーから、このまま行って。お願い。」

「…さくらいさ…」

翔「バイバーイ」

ひらひら、ひらひらと。

その手を揺らして。

旅立ちを決意した、少しずつ遠ざかる背中が滲んで

はらはら、はらはらと。

零れ落ちる涙を拭って。

私はくるり、背を向けた。

歩き出す。

新しい明日を描くために。