だけどこんなに君が好き《part.3》【ARS N】 (ページ1)

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93.彼の見ている風景。ページ1

トイレでしっかりクマを消して、何も無かったようにコーヒーとアイスカフェラテを手に席に戻ると、

櫻井さんは遠くを見つめていた。

そこだけ空気が違う。さっきまでとは別世界。

「…櫻井さん？」

控えめなボリュームで声を掛けても、空気は何も変わらない。

まるでシャットアウトされたみたい。

何を考えてるんだろう…

もう一度、声を掛けようとして出かかった声をぐっと閉じ込める。

そしてそのまま、隣の席にそっと腰を下ろした。

彼が見つめるその先を見つめてみても、

私には何も見つけられない。

翔「……っうぉ！」

「気づくの遅い(笑)」

翔「目ぇ開けたまま寝てた」

差し出したカフェラテを受け取ると

櫻井さんはふんわり笑う。

彼を包んでいた膜が溶け落ちて

そして私たちの世界はまた繋がった。

「櫻井さん、もしかして目開けたまま寝るタイプですか？」

翔「しかも寝相激悪(笑)」

「ふふ、意外(笑)」

翔「じゃあ、そういうそっちはどーなんだよ」

「自慢じゃないんですけど、昔から寝相だけはいいんです。こう、ピシーっと」

翔「ピシーっと？それこそ意外だわ(笑)」

「それ、どういう意味ですか」

翔「ごめんごめん(笑)」

翔「俺じゃあ、Aちゃん蹴り飛ばして落としちゃうかぁ…ほんっと、全然違うねぇ…」

最初っから。全然違かった。