冷静沈着な女医 Ⅶ 【コードブルー】 (ページ12)

今日:134 hit、昨日:284 hit、合計:209,754 hit

episode95 ページ12

山口匠くんが運ばれた病室に入ると緋山先生が彼の頭を洗っていた

名「…何してるんですか？」

緋「助けられなかった時点で彼は私たち救命医の手を離れた。

してあげられるのは､これくらいだから」

名「……山口匠くん､17歳。富津高校の2年生。バレー部ではセッターを務めてた。

明るい性格で友達も多い。将来は教師になりたがってた」

いきなり匠くんのことを話し出した俺の方を緋山先生は少し驚いたように見た

緋「どうしたの？急に」

名「ご両親に聞いたんです。俺なりに彼のことを知ろうと思って。

そうすれば少しは､残された家族に痛みに寄り添えるかなって」

緋「へぇ…それで？」

名「全然寄り添えませんでした。結局､他人事でした。可哀想だなとは思うけど､それ以上じゃない。

俺にとっての彼は4日前にたまたま診た患者の1人で､その患者が今日は臓器提供者になった。それだけです。

俺は緋山先生が羨ましいです。患者やその家族に寄り添えるのが羨ましい」

緋「…7年前さ､6歳の脳死の子供を診た。野上翼くん。その時私は患者とその家族に近づきすぎてキャリアを失いかけた。

おかけで随分遠回りもした。でも､その時ある先生に言われたの。遠回りすることで見える景色もあるった」

名「…」

緋「名取。…人それぞれでいいんだと思う。どんな景色が見えるのかは」

緋山先生の言葉を聞いて､何かが吹っ切れた気がした

名「俺もやらせてもらっていいですか」

緋山先生は黙って場所を空けてくれて､俺は恐る恐る匠くんに触れた

名「…ありがとう。君のおかげで6人が生きる。…君はこんな言葉､いらないかもしれないけど」

━━━━━━━━━━━━━━━

自分に落胆することは悪いことじゃない。

心底自分が嫌になって､初めて人は変わろうと思えるから。

落胆は成長に繋がる。でもそれは､若い人の場合だ。

私たちはもう昔の自分じゃない。

落胆が成長に繋がる時期はとっくに過ぎてしまった。

今の私たちに求められるのは､成長ではなく結果…それだけだ。