【◇】稲実エースが惚れちゃった (ページ8)

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*主人公side*

1年生が入部してきて早くも1週間が経った。
1年生達もきつい練習に少しずつ慣れてきたようだ。

その中でも、やっぱり飛びぬけた実力を
持っているのがピッチャーの成宮鳴。
変化球、制球力、ボールのキレ。
そして貴重なサウスポー。
野球未経験者の私でも、とんでもない1年が入ってきたのが分かる。

しかし、生意気なところは相変わらずだ。
雅も早々に手を焼いている。

ただ、私にはあの一件以来、話しかけてこない。
挨拶くらいはもちろんするけど、入部翌日は
練習後わざわざ私のところまできて手伝ってくれたのに
その翌日以降は他の所で片付けている。

あの1回は何だったんだ？
そんで私は早々と嫌われたんだろうか...？
いやまぁ今のところ部活に支障はないし
嫌われててもいいけど。
なんとなく、成宮はあんな性格でも悪い子でないことは
明白なので普通に接することができるならそうしたい。

4月は春大があるので、毎週土日は試合があることが多い。
春大に関しては、まだ1年の出場はない。
関東大会へ行けば、出る機会はあるかもしれないが
それも都大会の結果次第。

ベンチでの記録員は雪先輩のお仕事なので
私はスタンドでみんなと一緒に応援。

春季大会の結果は、惜しくも優勝、準優勝には届かず
関東大会の出場機会は逃してしまった。

あとはひたすら練習試合を重ねながら
夏の大会に向けてチームをさらに強化していく。

4月も終わりのある練習日のこと---

私は空になったウォータージャグを洗うため
水道のある場所まで行くと、休憩中に1年数人が
成宮のことをぼやいていた。

「成宮のやつ、先輩にあの態度はねぇよな。」
「あいつばっかりブルペン入ってさ。
俺も投手希望だけど全然投げさしてもらえねぇよ。」
「なんかコネとかあんじゃねぇの？」
「あんな自己中な奴、試合に出たところで勝てんのかよ。」

これ以上聞いていられなかった私は、1年の前に出る。

『それくらいにしておきなよ。』
「せ、先輩！いや、今のは....」
『別に今の会話を他の人に言うつもりはないから安心して。
ただ、いくらなんでもチームメイトに対して言いすぎなんじゃない？』
「でも、成宮だけ贔屓されてるのは事実、ですよね...」
『上手い人はさ、それに見合った努力をしてるんだよ。
もちろん生まれ持ったセンスもあるとは思うけど、
それだけでのし上がれるほど、うちの学校は甘くないよ。
稲実に入ってきたみんななら、それくらい分かるでしょう？』