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「私は私を好きな人にしか抱かれたくないの」
或る夜、眠気覚ましのコーヒーをいれにきた私に彼女はそう言い放つ。
今日は泊まり込みかな、と思うほどの忙しさ。仕方がない。こういう時期は往々にしてある。覚悟を決めてガソリンを注入しに来たら彼女がいた。いつもは外でようやく出会える彼女が、今日はオフィスの中にいる。
「……私が君を好きじゃないとでも？」
「あんた、男女見境なく食ってるでしょ」
「ふうん。どこから仕入れてきたのその情報」
「否定しないんだ」
「かなり昔の話だよ」
本当に、本当に昔の話。
そもそも君だってそうだろう。君にだけは詰られたくない。
でもこれはいい兆候だ。だってオフィスの中では魔法を見せない彼女が、はじめてオフィスでシンデレラになった。随分と疑り深いプリンセスだ。
真実の愛。そんなことはどうでもいい。君は私の堕としたガラスの靴を手に持ち、そして探し回ればいい。確かめたくて仕方ないんだろう？私の奥底を。
「志賀くーん。……あ、お話し中だった？」
「ううん。こうちゃんどした？」
「記事の校正なんですけど、人足りなくて。今探し中なんです」
「それなら私とAがやるよ」
「え、いいの？」
「お前なあ…。ま、了解。デスク置いといて」
「ありがとうございます〜！マジ助かったあ」
「動画も記事もで大変だね。頑張って」
「はい！ありがとうございます二人とも！」
皆から見たらただの同僚。至って普通の会社員で、至って普通の私たち。
それが私と過ごすam0:00までのほんのわずかな時間には全くの別人になるんだからやめられない。一度たりとも超えさせないその君なりのボーダーラインを、今日不本意に超えてしまうけどそれはいいの？まあ二人きりじゃないし、仕事だし、普通にノーカン？情緒が足りてないな。折角の舞踏会楽しみにしてるのに。
「そうそう。近々テロをするんだけど志賀もどう？」
おそらくこれはラストノート。夜の匂いが鼻腔をくすぐった。
「……危ない橋は渡らないほうがいいよ」
「はは、善処する」
本当かなあ。
理性と野性の間で揺れる君の輪郭が私のことを捉えた。
歓喜なのか情熱なのかはわからないけど、今までで一番の秘密が漏れだして私を溺れさせようとしてくる。
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作者名：早瀬 x他3人 | 作者ホームページ：
作成日時：2021年3月29日 15時
