恣 / sg ページ44
「私ね、シンデレラなの」
或る夜、私はシンデレラに出会った。
その人はおよそシンデレラと言えないほど獰猛で、鋭利な牙が見え隠れするような人だった。それを言えばきっと喉を掻っ切られて私は死ぬだろうし、彼女にかかった魔法が解ける瞬間を見届けられないならそれはそれで死んだも同然な気がする。
煌びやかな服を身にまとったその人はその真っ赤な唇で煙草を食み、大きく息を吸って、吐く。私に向かって、肺の中のすべてを出し切るかのように大きく吐く。
「じゃあ一曲ダンスでも」
「だめ。今日は下見」
「なんの?」
「舞踏会の」
「素敵。ドレスどうしよう」
喫煙所にかかるBGMが私たちを躍らせたがっているのを君は知っているだろうか。
煙はゆらゆらと私たちを包んで、さながら舞台演出の様に引き立たせている。ねえ、君がシンデレラであるように、きっと私もシンデレラなんだ。だってこんな夜はドレスを翻して階段を駆け下りたいでしょう。ガラスの靴を片方だけ落として、にやりと笑ってその場から消え去りたいでしょう。そうでしょう。
そんな私と手を繋いで、かぼちゃの馬車を蹴りあげて、奔って夜に飛びこもうよ。そうしようよ。
さて、君にお誂え向きなドレスはどんな色で、どんな刺繍が施されてるんだろうか。きっと透き通るほど鮮やかな青空色のドレスでも、夜空に溶け込むような星空色のドレスでもない。私が思うにそれは、真っ赤なドレス。血で染め上げた反逆者の色。君は真っ赤なシンデレラだ。
「志賀はビビッドピンクが似合うよ」
「ええ、本当に?嬉しいな」
「大暴れしたいんでしょ」
「それはそれはしたいね」
「近々大暴れする予定があるけどどう?」
「それは”Shall we dance?”?」
「ふふ、いずれはそうかもね」
am 0:00が近い。彼女に灯っていた炎は消え、それと同じくして彼女も消える。
一連のことがすべて存在していなかったかのような喫煙所で彼女が遺していった空気をかき集めて煙草に火をつけた。副流煙と彼女の残滓が私の体に巡る。凶悪なドラッグの味がする。
「君と夜になれるなら、どこでだって踊りたいよ」
虚空に消える言の葉。ツァラトゥストラはかく語りき。
序章が私の身体にだけ響く。
夜の匂いがする。
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作者名:早瀬 x他3人 | 作者ホームページ:
作成日時:2021年3月29日 15時