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「…は？」
「歩きます、私田舎出身だからこう見えて歩けるんですよ」
「いや、何言ってんの、タクシー乗りなよ」
「お金かかるじゃないですか、あと今乗ったら吐きそう」
「だからって歩くって、遠いでしょ」
「…2時間くらい ？」
「え、いや、ダメだよ、あのね、女の子1人でそんな歩くのダメ」
なんだか急によく喋るようになったAちゃんは、何がダメなんですかと言わんばかり。男ならともかく、ほんと、絶対良くない。そんなんだから飲まされて潰されるんだよ。てかそんな早く元気になるはずないの、歩いてる途中でまた気持ち悪くなるよ。
「タクシー代、俺が出すから、それでもだめ？」
「いや申し訳ないです、ほんと、わたし大丈夫だから」
「違うの、俺が心配なの」
なんにも知らない君が本当に心配なの。なんでか分からないけれど、でも、あの瞬間俺に助けを求めた君をほっとけないの。
「そんなにタクシーいや？」
「酔っちゃいそうだし…」
てか、実はまだちょっと気持ち悪いんじゃないの。そんなの尚更1人で帰せないって。
「じゃあ、わかった、何もしないし、なんなら俺朝まで外にいるから、俺の家で始発待と？」
「…え？」
君は何も知らないから心配なんだよ。男の怖さも、酒の怖さも、この街の怖さも知らない。今ここで解散したら、歩き出す背中を見送ったら、俺絶対後悔すんの。多分不安で寝れないの。
「いや、それはさすがに申し訳ないですって」
わたしは大丈夫です、と立ち上がった彼女が顔を歪める。ほら、まだしんどいでしょ。なんもしない、ともう一度念を押す。お願い、俺のためと思ってさ。
「…じゃあ」
少し視線を泳がせて考えたあと、ようやく納得した彼女。
「ん、えらい」
ベンチに置いてあった彼女のトートバックと自分の荷物を持つ。
「10分くらい、歩けそう？」
彼女が小さく頷いたのを確認して、行こうか、と歩き出そうとする。
「いぬい、さん」
初めて、彼女に名前を呼ばれる。ぎこちない響きが何だかおかしいなと思いながら首を傾げて見せると、小さい声で続けた。
「…手、…さっきみたいに、してもらっても、いいですか」
さっき？…あぁ、お店出た時のこと？そっか、手繋いだっけ。手を繋ぐというか、あんまりフラフラの君を支えてたというか。どしたの、歩けないの、寂しいの。歩けるって言ったり、変な子だね。
「いいよ」
少し冷えた彼女の手が重なる。
am0:00、俺らは2人で歩き出した。
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作者名：早瀬 x他3人 | 作者ホームページ：
作成日時：2021年3月29日 15時
