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―――相変わらず、【若き天才画家 小柳A】が賞を総なめにした記事は新聞のとりを飾っていた。
顔以上に大きいトロフィーを掲げる彼女の笑みは、白黒であってもまるで色がついたかのように鮮やかで、天才画家ともなると白黒写真にさえも色をつけてしまうのか、と馬鹿な想像をしてしまう。
「あ、拓哉さーん!」
「噂をすれば」
「え、噂ってなに?」
「有名画家さんがよく言うよ」
今日は世界を飛び回る彼女が久々に日本に帰ってくる日だったからか、つい懐かしい記憶を思い出してしまった。
世界的に活躍している彼女と会えるのは、年に数回、多くて半年に数回。決して多いとは言えない。それでも、僕のためだけに帰ってきてくれているのだと思えば、多少の寂しさくらい容易く我慢できた。
今日もまた、日本の裏側から帰ってきたばかりだというのに元気な彼女に腕を引かれ、僕は歩みを進める。連れてこられたのは、辺り一帯が赤く色づいた公園内にある、噴水前。
そこのベンチに僕を座らせると、彼女は僕の正面に折り畳み式の椅子を設置し、大きなキャンパスを鞄から取り出した。
「天才画家に年に数回も描いてもらえるなんて、僕は幸せものだな」
「えへへ、そりゃあ約束ですから」
「そういうとこは律儀だね」
長年に渡って使われてきているであろう筆が、彼女の前でピンッと立てられる。片目を閉ざした彼女と、筆を通して目が合う。バランスの確認が出来たのか、Aは筆を持ち直すと、天才画家とはほど遠い、年相応の笑みを浮かべてみせた。
「―――だって、拓哉の為に描いてる時間が、一番楽しんだもの」
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私は、彼に「好きってなんだろ」なんて問いを投げ掛けてしまったことを、今でも恥じています。
その問いかけに答えてくれなかった彼を責めてしまったことも、とても恥じています。
だって彼はその後「これからも、僕の為に絵を描いてくれませんか」なんていう、好き以上に素敵な告白を私にしてくれたのですから。
小柳Aは今日も、最愛の人の為に筆を取ります。
来世で、彼に気づいてもらえるように。
彼がかけてくれた魔法が、いつか、解けてしまわないように。
-画家 小柳A著書『魔法の筆』より引用-
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早瀬(プロフ) - カルボンさん» カ、カルボンさん…!作品拝読しております!テーマ褒めて頂きありがとうございますお気に入りのテーマでしたので嬉しいです…!(T_T)皆様のお陰で素敵なものができて私も感激です!素敵な感想ありがとうございました! (2020年10月27日 0時) (レス) id: d923da9d53 (このIDを非表示/違反報告)
カルボン(プロフ) - あっ、、、致死量のエモ、、、。まず「好きと言わない告白」という企画テーマが天才すぎて頭抱えました。素敵すぎてこちらはどうにも「好き………」としか現在言葉が出てこない状況です。素敵な作品、ありがとうございました。 (2020年10月26日 23時) (レス) id: 6c016596a7 (このIDを非表示/違反報告)
早瀬(プロフ) - こむらさん» コメントありがとうございます!皆様が織り成すこの素敵な恋模様がとうとう世に放たれました……!私も感激で言葉がでません…(T_T)ご覧頂きありがとうございました!! (2020年10月26日 22時) (レス) id: d923da9d53 (このIDを非表示/違反報告)
こむら(プロフ) - 拝読しました。素敵な企画を本当にありがとうございます。どのお話も心を動かされました。私の語彙力ではうまく表現出来ませんが、メンバーと女の子たちの精一杯の愛情を見せて頂けて本当に幸せです。1話読む事に深呼吸して天を仰ぎました。お疲れ様でした。 (2020年10月26日 22時) (レス) id: 611554b67c (このIDを非表示/違反報告)
早瀬(プロフ) - やまだ はなこさん» コメントありがとうございます!そうなんですバチバチのエモなんですこんなとんでもないことあっていいのかという次元にきてます……!企画、お褒め頂きありがとうございます!ぜひこの神々のお話を何度も何度も読んでください!!(*^_^*) (2020年10月26日 21時) (レス) id: d923da9d53 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:早瀬 | 作成日時:2020年10月3日 0時