【QK】”好きです”についての考察【コラボ企画】

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「だから、拓司くんもこの本は読むべきだと思うよ」
「はは、おっけー。読んどく」
伊沢は、思いの外優しかった。
付き合って以来クイズの話は目に見えて減った。音楽やスポーツの話は少しだけするけれど、いつも私の方を伺っては話題を探しているように思えた。私の方から口を開くとどこか嬉しそうで、少しだけ擽ったくなる。
そして伊沢は私が薦める本を一週間のうちに読んでは長ったらしい感想まで言ってくれるのだ。
正直、万人受けするような本しか薦めてないし、そういうタイプの本は一度読んだらすぐに飽きるタイプだからそこまで感想を言われても感は否めない。が、まあ本人は楽しそうだし良しとする。

「Aちゃん家ってどこら辺？ 送ってこうか？」
「近いからいい。じゃあ、またね」
「あ、あぁ、うん。また」
伊沢はどうも私の家の場所を聞きたがる。それじゃあストーカーでもして来るんじゃないかと不安になって回り道をして帰ったこともあったが、ただただ私が迷子になっただけで伊沢なんて見当たりもしなかったのでその一回でやめた。無論、伊沢を私の家に招く気など少しもなかった。

「Aちゃんはさあ、あんまり服とかに頓着がねえんだな」
「まあ、そうだね」
正直、服に金をかけるのは勿体ないと思っているのが私だ。まあ、気に入ったデザインがあれば衝動買いしてしまうこともあるのでそこまで頓着がないかと言われると否定はするが、流行り物には確かに興味が無い。
これ似合うんじゃねえの、なんてデートで引っ張って連れて行かれた夢カワイイ系のお洋服のお店は、確かに私の好みドンピシャではあるけれど、一度も着た事がないタイプのお洋服だ。
どうして知っているの、なんて聞けなかった。前の彼女の話が出てくるかもしれなくて、怖かったから。

「好きってなんだろうな」
「……ぇ？」
「んん？ いやさ、なんとなく」
好きって、なんだろうな。
結局、私なんぞに似合いっこない夢カワイイ系のお洋服なんて買わずに有名な低価格ブランドの洋服チェーン店で買った無地のシャツは、伊沢の手にある袋の中にあった。
そんな、デートの帰り道。真ん丸のお月様が雲に隠れたり、出てきたり。
そんな事聞かれても分かんねえよ。というのが私の答えで。
だって伊沢は私に何度も好きって言ってくるけれど、結局その本心じゃ好きでも何でもないのだ。そんな口先だけの感情のなんぞやを聞かれたって、分かりっこない。それが、私の答えだ。

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