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結局、答えは貰えなかったし、彼の好きな子が気になって仕方ないし、恋心も人生も奪われたまんまで、彼が東京へ戻る日が訪れた。

本当にわたし以外の人に帰省は言わなかったらしく、毎晩どちらかの家で過ごした。過ちも成功も起きなくて穏やかな時間をただの幼馴染みとして過ごした。それでいい、いままでのわたしはそう思っていたはずなのに。

ここにきて、すこしの欲が顔を覗かせる。

いつもこうだ。彼が東京に行ってしまう日、次に会えるのはいつかわからなくって、それまで恋心が消えることはないんだろうなっていうのだけがわかって。

苦しくなって、好きな気持ちぶちまけて、スッキリしてやりたいって思ってしまう。そんな勇気、ないのもわかるのに。

彼の見送りのために空港まで車を出した。長い長いドライブも、ふたりなら楽しかった。

「俺さ、悩むの好きなんだ」

それまでは当たり障りのない会話を楽しんでいたのに、空港が近付いてきたとき、マスクをつけて表情がわかりにくくなった彼がそう言った。

「変わってんね」

わたしは悩むのは辛いし苦しいからあんまり好きじゃない。悩んだ結果、絶対に最適解を選べるならばいいけれど、わたしはそんな技術を持ち合わせていないのだ。

「悩むの好きだって自覚は前々からあったんだけど、なににいちばん時間割いてるんだろうって疑問に思ったの」

彼が悩む過程をじっくり楽しんでいるのはわかっているつもりだけど、それでも、共感はできそうにない。


「絶対Aなんだよね」


一瞬、文句かなと思った。

こんなに俺を悩ませるなんて勘弁してくれよ、っていう。でも、そうじゃないことはすぐにわかった。

赤信号が見えてブレーキを踏む。助手席の拳は、わたしをまっすぐ見つめていた。その顔、いつか、どこかで見たことある。


「……この間の質問の答えね、これ。そういうことかなって」


その言葉を聞いて重なった。あの夜、酔っ払った彼が好きな人について語っているときの夢を映した瞳だ。



「これからも、もっと悩ませてほしい」



心臓がドキリと鳴った。

ズキンと弾んで、ふわりとあたたまる。
きっとこれは自惚れじゃない、気持ちが通じたんだ。

初めからわたしの人生を奪っていたくせに、これ以上に拳に捧げられるものなんてないのに、もうとっくにわたしの人生は拳のものなのに。

「これ以上なにを渡せばいいの」

青信号に変わったので、仕方なく車を進める。ひとまず、車を停めたら愛をめいっぱい渡そうか。

あとがき→←▽



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早瀬(プロフ) - カルボンさん» カ、カルボンさん…!作品拝読しております!テーマ褒めて頂きありがとうございますお気に入りのテーマでしたので嬉しいです…!(T_T)皆様のお陰で素敵なものができて私も感激です!素敵な感想ありがとうございました! (2020年10月27日 0時) (レス) id: d923da9d53 (このIDを非表示/違反報告)
カルボン(プロフ) - あっ、、、致死量のエモ、、、。まず「好きと言わない告白」という企画テーマが天才すぎて頭抱えました。素敵すぎてこちらはどうにも「好き………」としか現在言葉が出てこない状況です。素敵な作品、ありがとうございました。 (2020年10月26日 23時) (レス) id: 6c016596a7 (このIDを非表示/違反報告)
早瀬(プロフ) - こむらさん» コメントありがとうございます!皆様が織り成すこの素敵な恋模様がとうとう世に放たれました……!私も感激で言葉がでません…(T_T)ご覧頂きありがとうございました!! (2020年10月26日 22時) (レス) id: d923da9d53 (このIDを非表示/違反報告)
こむら(プロフ) - 拝読しました。素敵な企画を本当にありがとうございます。どのお話も心を動かされました。私の語彙力ではうまく表現出来ませんが、メンバーと女の子たちの精一杯の愛情を見せて頂けて本当に幸せです。1話読む事に深呼吸して天を仰ぎました。お疲れ様でした。 (2020年10月26日 22時) (レス) id: 611554b67c (このIDを非表示/違反報告)
早瀬(プロフ) - やまだ はなこさん» コメントありがとうございます!そうなんですバチバチのエモなんですこんなとんでもないことあっていいのかという次元にきてます……!企画、お褒め頂きありがとうございます!ぜひこの神々のお話を何度も何度も読んでください!!(*^_^*) (2020年10月26日 21時) (レス) id: d923da9d53 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:早瀬 | 作成日時:2020年10月3日 0時

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