君は何を思う３ (ページ5)

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１０４話ページ5

｢……｣

応接室のドアの前で、大きく息を吐く。

瑠衣のお父さんが、どんな用件で私に会いに来たのか。

当時の突き刺さるような鋭い目を思い出して、ドアノブに掛けようとした手が震える。

しっかりしろ、私！

逃げたりしちゃいけない。

｢よし、｣

小さく気合を入れて、ゆっくりとドアを開けた。

｢……お久しぶりです｣

鎌｢…久しぶりだね｣

そこには、12年前とは程遠い、白髪頭で痩せこけた瑠衣のお父さんがいた。
歳を重ねたせいもあるけど、随分と小さくなったように感じられた。

鎌｢しばらく見ない間に大人になったね。…まあ、10年以上経っていれば当然か｣

｢……今日は、どういった用で？｣

鎌｢あれからどうしていたものかと思ってね。……瑠衣がいなくなったのと同様に、君の足取りも分からなかったから｣

｢……卒業後は、日本には居ませんでしたから｣

鎌｢そうか……｣

2人の間に、しばらく沈黙が流れる。
息をするのも躊躇うくらいの静寂が私を包む。

鎌｢母さんがね、亡くなったんだ｣

｢え……おばさんが……｣

瑠衣のお母さんが亡くなった。

いつも優しかったおばさん。
大会のたびに、会場に応援に来て一生懸命応援してくれてた。
瑠衣と一緒に、私の事も娘のように可愛がってくれたっけ。
瑠衣が亡くなってからは、人が変わったように憎しみの目を向けられたけど。

鎌｢3か月ほど前にね。ガンだったんだ｣

｢……｣

弱々しくそう言ったおじさんの顔が、今にも泣きそうなくらい悲しいものに変わっていく。

鎌｢瑠衣が死んで、母さんはショックで食事もろくにとれなかった。精神的にも参って病院にも罹って。それでも2人で励まし合いながら、何とか今まで生きてきたんだ。しかしその母さんもいなくなって……とうとう俺一人になってしまった……｣

また昔のように、お前のせいだと責められるのかと、緊張が走る。

鎌｢虚しさばかりがこみ上げてね……どうしてこんなことに、って思った。初めはね……瑠衣の時のように、母さんが死んだのもAのせいだって恨んだよ｣

｢……っ｣

鎌｢でもね、気づかされたんだ。母さんに｣

｢え…？｣

そこまで話すと、おじさんは持っていた鞄から一冊のノートを取りだした。
それを、私の目の前に差し出した。