82話 ページ33
大「Aコーチ、ごめん」
「え?」
大「俺のせいで怪我しちゃったじゃん」
雨で濡れた体や髪の毛から乾きかけの湿った空気が漂って気持ち悪い、なんて思っていたら、大伍がポツリとそんな事を呟いた。
まさか謝られると思ってなくて、思わず目をぱちくり。
大「なんか言ってよ(笑)」
「や、大伍から謝られるとは思ってなかったんで……。でも大伍のせいじゃないよ。私がボーッとしてたのがいけなかったの。むしろ私が大伍に謝らなくちゃ。大事な時期なのに、選手に怪我させたら大変だもん」
今は1stステージ優勝がかかった大事な時。
主力である大伍に怪我なんてさせたらどうなることか。
大「なんかあった?」
「え?」
大「や、何となく思っただけだけど。夢生が、Aコーチが見学席のほう見て固まってたって言ってたから」
図星をさされてギクリとした。
夢生も、いつもあんなふざけてんのに見なくていいところはちゃっかり見てるんだから。
大「Aコーチ?」
「え?あっ、ああー。うん。それはね、見学席にモアイ像見ないな顔の人がいてね、びっくりしちゃって、」
大「嘘」
「う、嘘じゃないよ?こーやって、目がこんなんで、」
必死で説明していると、走っていた車は路肩に停められた。
どうしたのかと大伍の様子を窺うと、真剣な顔をした大伍がじっと私のほうを見てくる。
大「じゃあ、俺の目を見て言ってよ。本当の事なら、ちゃんと目を逸らさないで言えるでしょ?」
「っ……」
今が話すチャンスなのだろうか。
私がどうしてプロにならなかったのか。
どうして、サッカーを辞めてしまったのか。
洒落た落ち着きのある洋楽の雰囲気とは裏腹に、2人の間には緊迫した空気が流れる。
窓に叩きつける激しい雨音が、私の乱れた心を表しているかのようだった。
大「……サッカー辞めたことと何か関係ある、とか?」
「……はあー。なんでそういう所は鋭いかなあ」
大「それじゃまるで他は鈍いみたいじゃん(笑)失礼だな」
「大伍の日頃の態度と比べたら可愛いもんだよ」
大「ハハッ。……やっぱ話さなくていいわ」
「え?」
大「無理には話さなくていい」
「いい。話す。いい加減、みんなにも話さなくちゃって思ってたの。大伍はその練習!」
大「なにそれ(笑)まあいいけど。聞きますよ、Aコーチの話」
そう言うと、気を利かせてか、いつも通らない道を通って遠回りのルートへ。
面と向かっては話しづらいって、分かってくれたのかな。
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タカゆき - 再開楽しみにしています。ご自愛下さい (2018年3月29日 23時) (レス) id: c542140ed6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:彩女 | 作成日時:2017年7月31日 23時