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｢こんな伝統あるビッグクラブが、どうして私なんかに？｣
安西『池澤Aさん。高校サッカー界で名を馳せた名ストライカー。年代別代表も常連で、U-17Ｗ杯では2戦連続ハットトリック達成。ずば抜けた身体能力とテクニックでプロ入りが確実視されるも、数々のオファーを断り高校卒業とともに現役引退』
｢……｣
安西『なぜあなたほどの逸材が、プロにならずにサッカー界から姿を消したのか。詳しい理由は聞きませんが……今、サッカーのコーチをしていると聞いてこっそり様子を見に行ったことがあるんです』
｢え……｣
安西『引退して10年以上経っているのに、あなたは現役と変わらないくらいキレのある動きをしていた。聞けばＡ級ライセンスもお持ちだと言うではありませんか。指導の仕方も分かりやすく、実に丁寧でした。指導される側も、あなたのいう事を真摯に受け止め一生懸命にトレーニングに励んでいる。信頼関係もうまく築けている様です』
だんだん熱くなってきたのか、安西さんは私をスカウトした理由を前屈みになりながら語った。
｢私の指導を褒めてくださるのはとても嬉しいです。でも、私は女子チームのコーチしか経験がありません。男子となると、また勝手が違うと思うんです。本当に、私にアントラーズのコーチが務まるのかどうか……｣
安西『その辺はご安心ください。私どもがサポートさせていただきます。池澤さんがチームに入りやすいように配慮いたしますので』
そのほかにも金銭面や仕事の詳細などの様々な条件を説明してもらった。
私みたいな、小さい女子サッカークラブのコーチしか経験が無い人が、こんな厚遇でいいのかと思うくらい。
｢……すぐにはお返事できません。少しお時間を頂いてもよろしいですか？｣
安西『もちろんです。ゆっくり考えてください。私の連絡先は名刺に書いてありますので、何か気になる点がありましたらご連絡ください』
いい返事が聞けることを願っています、と言い残し、安西さんは足早にホテルを後にした。
『悪い話じゃないだろう？』
｢まあ、ね。だけど簡単には決められないよ｣
『そうだな。ま、じっくり考えてみろ。俺は行ったほうがいいと思うけどな。俺も新幹線の時間があるから、先に行くぞ』
｢うん。今日はありがと｣
『おう。またな』
おじさんは、じゃあ、と手をあげると荷物を持って駅の方へ消えて行った。
鹿島アントラーズ、かあ。
夢のような話だけど、夢じゃないんだよね。
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作者名：彩女 | 作成日時：2016年3月28日 23時
