1薄い栗色の髪 ページ2
僕はいたって普通の、いや、引きこもりの高校生。
僕は死んだ。その筈だった。しかし、生きている。
ここはどこだろうか。辺りを見回しても草木が生い茂っているだけで人工物が見当たらないことに不安が募る。
「……、」
どうやら声も満足に出せないようだ。喉元に指先を当ててみるが一切振動していない。
何かストッパーのようなものがかかっているのだろうか。声を出そうとすると、空気の詰まる感覚がするだけだ。
このよくわからない場所から出なければ、そもそも自分一人で抜けられるような場所なのだろうか、これからどうすればいいのだろうか、など不安に押しつぶされそうになりながら必死に考えていると、遠くの方から草を掻き分ける音が聞こえてきた。
近づいてくる何かが人間なのか動物なのかわからない。ただそこに座ってじっとしていることしかできなかった。
「誰かいるんすか」
真後ろよりもう少し遠い所で足音は止まり、その主はこの場にそぐわないおどけた声を発した。
何処かで聴いたことのあるような、でも少し違和感のある、不思議な声だ。
「貴方、生きてます？」
自分が一向に動かないから生きているか疑っているのだろう。声の主は近づいて肩を何かで軽く突いてきた。
死後硬直とは違うが、まだ上手く身体が動かせない。顔だけを振り向かせて声の主を見据えた。
「……喋れないみたいですね。取り敢えず着いてきてください、立てます？」
そう言われて駄目元で足に力を入れてみると案外楽に立つことができた。
しかし足元がふらふらと落ち着かないから、歩くのは時間がかかりそうだ。
「声は聞こえてるみたいですねえ。喋らないから耳もダメかと」
こちらが立ち上がるとその人は少し安心したように声を落ち着かせた。
ゆっくりと振り返り、足元からその人をまじましと観察する。
時代にそぐわない下駄を履き、着流しを羽織った、少し変わった模様の帽子を被る、薄い栗色の髪をした男性。それと口元に当てられた扇子。
随分と昔にタイムスリップしたのかな、などと考えながら遠ざかるその人の背中を融通の効かない両足で追いかける。
「さ、行きましょうか」
やっと追い付くと目の前の男性は優しく呟いて、僕の存在を肯定しながらゆっくりと歩いてくれた。
これからどうなるのだろうかとか、この人は誰なんだろうかとか、そういった大事な事よりも、目の前で揺れる柔らかな髪を見つめ、ただ漠然と綺麗だなと思うことで精一杯だった。
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勝己 - とても面白かったです！更新待ってます (2020年2月29日 17時) (
レス) id: c1007a61f7 (このIDを非表示/違反報告)
にんじんしりしり(プロフ) - 紅弥さん» コメントしていただきありがとうございます。忙しく、更新ができない状況でした。明日、8話を更新いたします。もうしばらくお待ちください。 (2018年7月30日 0時) (レス) id: db9f040bb6 (このIDを非表示/違反報告)
紅弥(プロフ) - とても面白い作品で、読んでいて楽しいです。更新待ってます (2018年7月29日 1時) (レス) id: e562ecd9eb (このIDを非表示/違反報告)
にんじんしりしり(プロフ) - 柚子さん» 感想ありがとうございます。面白いと言っていただけて、嬉しい限りです。今後の更新をお待ちください。 (2017年9月4日 23時) (レス) id: b1791a5cf3 (このIDを非表示/違反報告)
にんじんしりしり(プロフ) - 恋雪さん» 感想、並びに応援ありがとうございます。大変励みになります。 (2017年9月4日 23時) (レス) id: b1791a5cf3 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：にんじんしりしり | 作成日時：2017年6月15日 23時
