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いじめられっ子　【天.落.譚】ページ12

『全く…逃げるのも手なのに…』
「うう……情けない」

夕暮れの先生がいない保健室にて、そう情けなく返事をする彼の傷だらけの腕に包帯をグルグルと巻きつつそんな話をする。

『ほんときみ頭良いのに馬鹿』
「褒めるか貶すかどちらかにしてや…」
『貶してます』

えー…と眉を潜める江見昴の姿を見た。
夕焼けの明かりに照らされて乳酪紅茶色のような紙がややオレンジ色に輝いていて、白色の色素が薄い目は今もなお手当が続けられている腕の方へと視線が行っている。
スタンドカラーシヤツはよれよれになり、袴は泥でまみれ、袖もやや破れている。
金縁の丸眼鏡もひびが入っていた。
痛々しい姿を直視したくはない、がこんなに姿で校舎裏でしくしくしているのを見たら助けたくなるのは仕方のないことだろう。

『はい、おわり』
「あ…ありがとうございます……Aさんのおかげでだいぶ楽になりました」
『消毒して包帯まいた程度で楽になるかってんだ、馬鹿」
「……いえ、本当に痛みが引いている気がするんです、きっと君のおかげ」
『……そう。そういう事にしておくね。でも無理は厳禁だから』
「はい、それじゃ帰ろうか」

そう言いつつ二人して椅子を立ち上がり荷物を持つ。
片方は綺麗な教科書とノート、ペン、もう片方はボロボロの教科書とノート。
傷一つない手を差し出すと、傷だらけの手が握り返してくる。
中庭には誰もおらず、早く帰宅をしなさいとチャイムが鳴り響く。

『そういえば、君は大人になったらどうしたい？』
「そうですね、国の為になるような仕事に就きたいです」
『例えば？』
「軍の総帥とか！」
『…立派なこって、良いなぁ……』
「ああ、でも、軍医になるってのもいいかもしれへんなぁ…ｺﾞﾎｯ」
『軍に入るってのは変わらないんだな』
「貴女はどうですか？」
『せいぜい、良い所に嫁ぐくらいかな』
「…ｹﾞﾎｯｹﾎｯ……そうですか」

彼は少し咳き込みつつもそう言ってガーゼが貼り付けられている頬を上げて笑顔を浮かべ、少し強く手を握り校門の前で立ち止まる。
彼の方を見ると、なにか決めた顔で頬を少し染めてもう片方の手を取り、両手とも握られている状態になった。

「…Aさん」
『な、なんだ？』
「…私、もしかしたら英国に行けるかもしれないんです。
それでもし、俺が、いや私が貴女を守れるほど力をつけて強くなったらその時は」

私の所に来てくれますか？

夕焼けのある一日、歪む前の二人の学生の話。

＿＿
遺言江見昴好