15話 ページ16
唇を噛みながらAが答える。
「知っているよ。それぐらい。
私が一生許されることなんてない事を。
誰よりも汚れて、洗い落とせない、腐った、真っ黒で不幸の原因である事を。
あの時誰よりも死ぬべき存在だったのを。
優しさに触れる、幸せになる権利など持ち合わせていない事を。
それでも私が死ぬ事など赦されている訳がない。
死を自ら選ぶ事は『逃げ』だよ。
自分の罪から、責務から、逃げ出す事だ。
常に覚えているよ。
何才何ヶ月で誰を殺したのか。
忘れていない。
今迄殺した人は全員名前だって言える。
絶対に忘れないし、忘れる事など許されない。
夢では彼等が何時も私にさっさと死ねと願っているよ。
常に彼等が私を見ている。
闇に引き摺り込もうと手を、脚を、髪を、頸を搦め捕ろうとしている事を知っている。
それでも私は抗うよ。
誰に何と言われようとも、死ぬことはできない。
そんなの郷の者達に顔向けできないだろう。
託されたんだ。
絶対に頸を狩ってみせる。
彼奴を殺したからと言って彼等が戻ってくる事などないと十も百も承知している。
其れでも、やらなければならないんだ。
全て背負って歩いて行くとあの日決めた。
彼等に生きた事を胸を張って言えるような人生を歩むと。
自己満足に陥っているだけだと鼻で笑えば良い。
それでも、こんな私にも待っていてくれている人がいるんだ。
正しい事を教えてくれた人がいる。
空っぽだった私を引き取って育ててくれた人がいる。
叱ってくれた人がいる。
見返りなんて求めずに愛情を注いでくれた人がいる。
光で照らしてくれた人がいる。
居場所を作ってくれた人がいる。
手を差し伸べてくれた人がいる。
背中を押してくれた人がいる。
道標となってくれた人がいる。
好敵手として認めてくれた人がいる。
隣で泣かせてくれた人がいる。
私と友達でいてくれた人がいる。
私を笑顔で出迎えてくれる人達がいる。
私を大切に思ってくれている人がたくさんいるんだ。
支えられてきたからこそ、簡単に折れるつもりはない。
誰よりもしぶとく生きて、目的を果たすよ。」
真っ直ぐ2人を見つめる。
「……あれを見ても、それが言えるかい。」
そう言って黒い着物の子が指差した先には。
今まで殺した人、郷の人々。
体はぼろぼろで死んだ時の姿なのだろう。
血だらけの手で手を、脚を、頸を、髪を、顔を掴んでくる。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 269人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ヒロアカ」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
秋田犬 - 本当にこの作品が大好きです。私は占ツクで最初に読んだのがこの作品でした。1年半ほど経ち偶然この作品を見かけて、本当に素敵な作品だと感じます。自分が引き込まれてしまう作品でした。大好きです！ (1月3日 0時) (
レス) @page48 id: b4989b061f (このIDを非表示/違反報告)
北窓(プロフ) - かわあいさん» コメントありがとうございます!そう言っていただけると書いてよかったなと思います！ (2021年10月7日 22時) (レス) id: 51268113ac (このIDを非表示/違反報告)
かわあい - 面白かったです！！ありがとうございました、！何回か泣いてしまった… (2021年10月7日 19時) (レス) @page48 id: 173f9610a3 (このIDを非表示/違反報告)
北窓(プロフ) - 有難うございます！応援していただき、心より感謝申し上げます！ (2020年7月26日 18時) (レス) id: 5a0c901b45 (このIDを非表示/違反報告)
sana - 遅くなりましたが、お疲れ様でした〜！ (2020年7月26日 13時) (レス) id: 09fc709cdd (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：北窓 | 作成日時：2020年4月22日 21時
