11話 ページ12
「ねぇ、待って、オレ、結婚はしてないよ」
握られた手が離され、肩を掴まれる。
じゃあ、あの指輪は？
そう尋ねたかったけれど、彼が『結婚
結婚はまだなだけで、婚約はしたのか。
アレは婚約指輪だったのだろう。
「…っ大切な人が、いるのね」
「……うん、すごく素敵な人だよ。」
嗚呼、聞きたくなかった。
貴方の口から、愛しくて仕方ない、とでも言うような、他人に向けられた甘い声なんて。
今すぐ耳を塞いでしまえれば、どんなに良かったか。
.
その後はたわいない話をして、自宅付近まで送ってもらう。
運転席から降りた景光くんが外からドアを開け、差し出してくれた手を取って車を降りた。
「っ、今度ご飯に誘ってもいい？」
「うん、ぜひ。降谷くんにもよろしく。」
「………こ………に……」
「え？」
「いや、なんでもないよ」
重ねた手が掴まれ、なんと言ったか聞き返しても笑顔で誤魔化された。
今日はありがとう、と述べて手を離す。
「古峯さん」
あの頃と変わらない優しい声色に、振り返る。
すると、後頭部に景光くんの大きな手がまわり、ゆっくりと頭が引き寄せられた。
屈んだ彼の額が、私の額と優しく重なる。
これでもか、というくらい優しさと甘さを孕んだ彼の瞳が、至近距離で私を見つめた。
「気をつけて帰ってね。
おやすみ。」
後頭部にあった温かくて大きな彼の手が、項をなぞり、首元を通って、頬をゆっくりと撫でた。
そして、瞼を閉じた彼の鼻が私の鼻と優しく触れ、離れてゆく。
最後に一回だけ、私の頭に優しく手を置き、酷く熱を孕んだ笑みを浮かべたあと、彼は車に乗り込んだ。
「〜〜〜！！！」
弾けたように、一目散に家へと向かう。玄関に入り、鍵を閉めた後、ずるずるとドアを背にしゃがみ込んだ。
去り際のあの癖は、彼と付き合っていた頃のままだった。
何だってあんな瞳で私を見るの。
目は口ほどに物を言う。雄弁すぎたのだ。
零れ落ちるほどの色と熱を帯びたそれは、私を恋焦がすのに十分すぎる。
頭に回った彼の手が、体温が、至近距離の吐息が、ゆっくりと伏せられた瞳が、甘くて蕩けた、生生しく熱を孕んだ眼差しが、焼き付いて離れない。
自分の心臓が痛いほど鳴っている。顔に熱が集中しているのが嫌でもわかる。
「あ"ぁぁぁぁ。好きです、景光くん」
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北窓(プロフ) - 春香さん» ご返信遅くなりまして申し訳ございません。励みになるコメントありがとうございます。また少しずつ更新していければと考えております。 (5月12日 20時) (
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北窓(プロフ) - SARAさん» ご返信遅くなりまして申し訳ございません。コメントありがとうございます。他作品も読んでいただけているとは嬉しい限りです。もしまた本小説に目を通す機会があれば、お楽しみいただけると幸いです。 (5月12日 20時) (レス) id: affc5da624 (このIDを非表示/違反報告)
北窓(プロフ) - Moonさん» ご返信遅くなりまして申し訳ございません。励みになるコメントありがとうございます。また少しずつ更新していければと考えております。 (5月12日 20時) (レス) id: affc5da624 (このIDを非表示/違反報告)
北窓(プロフ) - カルーアさん» ご返信遅くなりまして申し訳ございません。コメントありがとうございます。とても励みになります。もしまた機会があれば本小説に目を通していただければと存じます。 (5月12日 20時) (レス) id: affc5da624 (このIDを非表示/違反報告)
北窓(プロフ) - 天然石さん» 更新およびご返信が遅くなり、申し訳ございません。また、何度もコメントしてくださりありがとうございます。とても励みになります。もしまだ覚えていていただけるのであれば、楽しんでいただけると幸いです。 (5月12日 20時) (レス) id: affc5da624 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：北窓 | 作成日時：2022年5月21日 16時
