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10話 ページ11

降谷くんに挨拶をして、車の後部座席へと乗り込む。





「…あー、あのさ」





バックミラー越しに見える景光くんは、そわそわと目線を絶え間なく動かせながら、ひと息ついたあとに真っすぐこっちを見た。





「……ちょっとだけ、寄り道してもいい?」



「…もちろん」






本当に罪な人だと思う。
やった、と笑った彼の目がくしゃりと垂れ下がったのが、バックミラー越しによく分かった。








.









彼に連れられてきたのは高台。
足元に気をつけて、と差し出された手を借りて小さな石や叢を掻き分けて進む。






「…っ、綺麗ね」





天を埋め尽くすほどの星々。目下には明かりの灯った街並み。
自分がなんでこの仕事をやっているか分からなくなったときはここに来るんだ、と彼が呟く。
人々が生活している灯りを見て、あぁ、彼等を守るために、灯りを絶やさないために僕らは日々生きているんだ、と。



繋いだ手を強く握り返した。
一瞬、驚いたように肩が飛び跳ねた彼は、何も言わずに手を握り返してくれた。








.








「ねぇ、古峯さんは今、付き合ってる人いるの?」





彼はどんな意図でその問を述べたのだろうか。
自分が連絡を断った昔の女が、未だに引きずっていないか確認をしたかったのか。
きっと好意がバレたら友達になんて戻れはしない。
妻帯者に想いを寄せる元カノなど地雷でしかない。






「……好きな人が、いるの。」


「っ、そっか…」





それでも、私の心に居る貴方を否定したくはなかった。
それが誰かなんて絶対に言わないけれど。
貴方以上に好きな人なんてきっとできない。
いつか人生で二番目に好きな人と幸せになるから。
だから、どうか。
きちんと友達として振る舞うから。
少しの間だけ、貴方の時間を独り占めさせて。






「諸伏くんは、………っ結婚、おめでとう」






きっと、声が震えていた。
こんな心にもないことを言いたくはなかった。
こんなに醜い感情で述べていい言葉ではなかった。
あぁ、もう、私の意気地なし。せめて笑えよ。

下を向いたら涙がこぼれそうだ。
ここが暗い場所で良かった。
涙が溜まって我慢している顔なんて見られてはいけない。
貴方の幸せを正直に喜べないなんて、最低だ。私。

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天然石 - 更新してほしいです (4月21日 14時) (レス) @page30 id: 9e1c69280d (このIDを非表示/違反報告)
天然石 - 更新してほしいです (12月24日 12時) (レス) @page30 id: 9e1c69280d (このIDを非表示/違反報告)
春香(プロフ) - 更新待ってます! (11月26日 11時) (レス) id: bb559b3d0f (このIDを非表示/違反報告)
天然石 - 続き書いてくださいずっと待ってるのですが (11月11日 16時) (レス) @page30 id: 9e1c69280d (このIDを非表示/違反報告)
SARA(プロフ) - 他作品から来ました。やっぱりすごく面白いです!このじれったい2人はどうなっていくんですか?!気になります! (10月16日 22時) (レス) id: 000b3a28d3 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:北窓 | 作成日時:2022年5月21日 16時

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